修羅の国二次創作世紀末覇王北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 前編

[二次創作] 北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 前編

 作:世紀末覇王

 0.プロローグ〜乱世の始まり〜
 1.宿命の変化
 2.女の生き方
 3.ユリアの死
 4.美しき拳
 5.世紀末覇者・拳王
 6.戦の日々
 7.ラオウの本心
 8.南斗の宿命
 9.ラオウとトキ
 10.愛

0.プロローグ〜乱世の始まり〜

私の名はシグナム。剣に烈火の如く熱い闘気を纏わせ敵を斬る技を得意とする南斗108派の一つ・南斗烈火拳の使い手だ。南斗一の女戦士である私の事を人は“烈火の騎士”と呼ぶ。子供の頃から父方の叔父である南斗の師匠から拳を学び、女らしい生き方などとうに捨て、拳の道一筋に育った。過酷な修行の中、会得し極めたのが南斗烈火拳だった。そして南斗の頂点である南斗六聖拳の6人中5人とも面識があり、手合わせをした事もあった。5人ともそれは強く偉大な存在だった。私は数多い南斗の戦士の中でその5人の次に強いとも言われていた。ただ1人南斗正統血統のみ会う事は一部の関係者以外私ですら許されなかったため名前も顔も知らなかった。彼ら以外の南斗の拳を持つ者は全て彼らの配下になる運命だった。私もその運命を最初から受け入れていた。
だが、世界を破滅へと導いたあの核戦争の後、南斗六聖拳も南斗の歴史も大きく変わってしまった。それは秩序、文明全てが崩れ去り、暴力が支配する乱れ果てた世の始まりでもあった。そして私の運命も・・・

1.宿命の変化

 ここはとある南斗の寺院。ここの屋上で1人の鉄仮面の男がもう1人の男に話し掛けている。その鉄仮面の男は北斗神拳先代伝承者リュウケンの義理の子息達、つまり北斗4兄弟の三男・ジャギであり、そしてもう1人の男は南斗六聖拳の1人・南斗孤鷲拳のシン様だった。ジャギは外の崩壊した街の景色を見つめ何か悩んでいる様子のシン様にひたすら話し掛けていた。
「なあ、シン!お前、ユリアの事を愛してるんだろ?何せお前は死ぬまで愛に生きる殉星の男。だったらその愛を1番愛する女に捧げるべきだろう。違うか?」
「しかし、ユリアはもうケンシロウのもの…」
「何を言っている!?あんな奴に渡してどうする!欲しいなら奪い取れ!食い物も金も地位もそして女も力ずくで手に入れろ!今は悪魔が微笑む時代なんだよ!」
「悪魔が微笑む時代…」
「そうよ!時代は変わったのだ!今や秩序も法律もない!暴力こそがこの世を支配する全てだ! お前と同じ南斗六聖拳のユダやサウザーはもうとっくに己の欲望のために動いているぞ。偉いと思わんか?お前も奴らと同じ南斗六聖拳の1人ならその拳を己の欲望のために使え!お前の最も欲しいもの・ユリアをケンシロウから奪い取れ!殺しても構わん!お前も奴の甘さは知っているだろう?その甘さを狙うのだ!ラオウもトキも今なら文句は言わん。さあ、やってしまえ!」
「う、ウォォォ!!奪い取ってやる!ケンシロウを倒してユリアを俺のものにしてやる!ユリアのためなら破壊だろうが殺戮だろうが何だってやってやるぞ!ユダもサウザーも超えてやる!俺こそ南斗最強の男だ!!」
「そうだ!その意気だ!やっちまえ!」
「ウォォォ!今に見てろ!ケンシロウ!!」
私はその様子を遠くから隠れて見ていた。こうしてジャギの影響によってシン様の愛に生きる殉星の宿命は狂気に変わってしまった。
「ケンシロウ!ユリアは俺が頂く!南斗獄屠拳!!」
「グァァ!シン…貴様…!血迷ったか…!」
「貴様に足りない物。それは欲望と執念だ!俺は我が南斗孤鷲拳で欲しいもの全てを手に入れる。地位も権力も、そしてユリアの愛もな!」
その後、シン様はジャギに唆された通り、かつては良きライバルであった北斗4兄弟の末弟にして北斗神拳伝承者のケンシロウを倒し、彼の最愛の恋人・ユリアさんを強奪した。さらにその後、自らの組織・KINGを結成し、大勢の軍や兵士を従え破壊と殺戮によって勢力を広げた。そして自身の都市・サザンクロスまでも築き上げた。それもこれも全て愛するユリアさんのためだけに。正に完全にユリアさん一筋であるシン様の狂った愛情表現だった。
 話は変わってとある修行場。ここで私はある方の前で稽古をしていた。
「てやっ!たあ!」
「良いぞ。だいぶ強くなったな、シグナム。その調子なら俺の次に強くなれるかも知れない。頼りにしてるぞ。」
「ハイ、ありがとうございます。レイ様。」
南斗水鳥拳のレイ様。彼が当時の私にとって最も尊敬する存在だった。華麗な技で見るもの全てを魅了する南斗水鳥拳。私も何度もそれに心を奪われた。他の部下達からも信頼が厚く、彼も私達を部下と言うより良き仲間として優しく見てくれていた。私はそんな彼に一生ついて行くつもりだった。それなのに…
「レイ様~!大変です!!」
「どうした!?何があった!?」
「レイ様の…レイ様の故郷の村が野盗の襲撃を受けました!」
「何!?それは本当か!?」
他の部下からその話を聞いたレイ様は血相を変え大慌てで故郷の村に駆けつけた。だが辿り着いた時には既に遅く、村は壊滅状態と化していた。レイ様がご自宅に戻るとそこには彼のご両親が無残な姿で倒れていた。
「おい!お袋!お袋!」
お母様は既に息を引き取っていた。するとお父様がかすれた声で呟いた。
「レ、レイ…」
「親父!誰にやられたんだ!?アイリは…アイリはどうした!?」
「胸に七つの傷を持つ男とその仲間達に村は襲われた…。アイリや村の若い娘達は皆、そいつらに連れ去られた…」
「何だって!?そいつらはどんな顔をしていた!?七つの傷の男とはどんな奴だ!?教えてくれ!親父!」
「そいつは…」
その言葉を最後にレイ様のお父上は息を引き取った。
「お、親父〜!!」
泣き叫ぶレイ様。そんな彼を見ていて我々部下はただ黙り込むだけだった。
そのすぐ後、私達は村人達の遺体を埋葬した。また村が一つ、焼け落ちた。こんな時代だから小さい村ほどすぐ悪党の手に堕ちる。悲しい現実だった。レイ様はご両親の火葬の前で怒りと悲しみを噛み締めていた。
(兄さ〜ん!)
レイ様は妹・アイリさんの事を思い出しているようだった。私もアイリさんに何度かお会いした事があった。修行中のレイ様のもとによくお弁当を届けに来て、彼の下にいた私達にまでご馳走してくれた。その際、話もした。美しく優しい女性だった。それだけレイ様との仲も良く、正に理想の兄妹だった。
「畜生!親父!お袋!アイリ!」
手にはアイリさんの残したケープが握られていた。本来なら結婚式をすぐ間近に控えていたらしい。その結婚相手も偶然この村に来ていて、同じ男達に殺されたようだった。正に悲劇だった。きっとアイリさんは浚った悪党達に売り飛ばされているだろう。良い女ほど良い売り物になる時代だから。
「許さん…許さんぞ!七つの傷の男!絶対にぶっ殺す!」
「レイ様、我々もお供します!」
「お前達は来るな!七つの傷の男は俺がこの手で見つけ出し、親父達の仇を討つ!そして妹を…アイリを助け出す!」
激しい剣幕で正に豹変したかのような恐い表情でレイ様は怒鳴った。
「そんな事おっしゃらず、我々も…」
そう言うにも関わらず近づき手を差し伸べようとする部下の前でレイ様は手刀で近くの壁を切り裂いた。
「これは俺一人の問題だ。ついてくるようならお前達と言えども殺す!そうなりたくなければとっとと失せて俺の事など忘れろ!」
そう言ってレイ様は走り去ってしまった。彼の他人のために命を懸ける義の星の宿命は怒りへと変わった。私は最も信頼していた男性を失った。残された私達はただ呆然とするしかなかった。そしてまさか、この事件の犯人がシン様を狂わせた男と同一人物である事を知る由はなかった。

2.女の生き方

 こうしてレイ様に捨てられた者は皆、何処へと散らばり、私は暫く愛馬に乗ってあてもなく彷徨った。そんな中、とある場所で休んでいた私の前に南斗紅鶴拳のユダ様とその手下達が現れた。ユダ様が私の前に出て見て言った。
「久しぶりだな。南斗烈火拳のシグナム。」
「ユダ様。どうしてここに?」
「聞いたぞ。レイに捨てられたんだってな。可哀想に。所詮奴は自分の目的のためなら平気で他人を見捨てる男なのだ。」
「そ、そんな事は…」
「どうだ?ここは一つ俺の下に来るが良い。本来ならばお前のような美女は我が奴隷にしているところだがお前には特別に我が軍の将軍と言う地位を与えてやろう。俺のために戦え。俺の邪魔をする奴らを皆殺しにしろ。そしてその美を俺のために捧げるのだ。褒美はたんまりとやろう。良い話だろう。」
私はその誘いに最初、戸惑った。しかし相手は南斗六聖拳の一人。逆らう訳にはいかない。そのため私は素直に彼に従った。
「わかりました。この身をあなたに捧げましょう。」
「物分かりが早いな。それでこそ南斗一の女戦士。ではついてくるが良い。」
 こうして私はユダ様の組織の女将軍となった。城の中でユダ様の副官のダガールとコマクが私に話しかけた。2人とも以前から面識はあった。
「シグナム、ユダ様に感謝するのだな。ユダ様はお前を見込んで特別にこのような地位を与えてくださったのだ。」
「その通りだ。こうなった以上、ユダ様の命令に絶対背くなよ!わかってるな!?」
「わかっている。いちいち口出しするな。」
「へえへえ。しかしこうするにはもったいない女だな。なあ、ダガール。」
「全くだ。他の女みたいにいじりまくればいいのにな。いくら強い南斗の戦士と言っても女。こいつがいたぶられるとこ見てみたいよなあ、コマク。」
「ああ。俺だったらもう死ぬまでやってやるぜ。」
「俺もそうするな。やっぱり女は男の奴隷にされるのが1番だよな。ハハハ!」
2人は勝手な想像で私を皮肉るように笑った。だが鵜呑みにはしなかった。
「何とでも言え。ユダ様の副官なら変な事を考える前にもっとユダ様のお役に立つ事をしたらどうだ?」
私は2人にそう言い返した。するとコマクが怒った表情で言った。
「ケッ!ちょっと強いからって良い気になるなよ!」
「落ち着け、コマク。シグナム、まあ、せいぜい頑張れや。」
そう言って2人は私の前を離れた。
 それからというもの、私はユダ様率いる組織・UD軍の将軍として兵士を率いてユダ様に立ちはだかる敵を次々と殲滅していった。
「UD軍、覚悟!ユダの女どもは全て我々が頂く!」
「無駄だ。南斗烈火拳・烈火連舞斬!」
私は奥義で目の前の敵軍を葬った。こんな敵への殺戮の日々がひたすら続いた。しかしあえて美女狩り隊には参加しなかった。私は運命に従い、己の主のためにただ戦いたいだけだったから。
浚われて来た若い女性達がユダ様の奴隷となり、仕えさせられ、自由を奪われる。己がこの世で最も強く美しいと自賛する彼はその己の美しさを称えるために若い美女を己の下で使役し続けている。今日もユダ様を迎える美女達。全員の右肩にはUDの紋章が刻まれている。それこそユダ様の女であるという証だった。その中の1人・エイミィがユダ様に化粧品を渡しに前に出た。ユダ様がその化粧品を手に取りお色直しをするとエイミィに聞いた。
「エイミィよ。この世で最も美しいのは誰だ?」
「ハイ、それは当然、ユダ様でございます。ユダ様こそこの世で最も強く美しいお方。あたしはユダ様の美貌をずっとお守りしたいと思っております。」
「よろしい。よく言った・・・ン?何だ!その顔のシミは!?」
ユダ様がエイミィの顔に小さなシミが出来ている事に気付いて言った。
「こ、これはほんの顔の汚れでございます。すぐに落とせると…」
「ならぬ!そんな簡単にシミが出来るような肌を持つ女などに美しさなど有り得ぬ!それに髪にも少し乱れがある。気に喰わぬ!俺が求めるのは俺と同様、絶対的な美しさを持つ女のみ!そうでないものに価値などない!」
「そ、そんな・・・キャア!やめてください!やめて〜!!」
ユダ様はエイミィの手を無理矢理引っ張り手下どもの前に放り出した。
「価値の無い女などゴミクズ同然!俺の女になる資格は無い!連れて行け!」
ユダ様がそう言って見捨てると手下どもがエイミィに寄り集まって強姦されながら外へと連れて行かれた。少しでも気に入らなくなればこの様に手下共にいたぶられた果てに荒野にゴミのように捨てられる。
「キャア!やめて!助けてください、シグナム様!!」
エイミィは軍の唯一の女である私に助けを求めた。
「悪いがそれは出来ない。それがお前の運命だ。怨むのならお前のそんな悲しい運命を怨むのだな。さらばだ、エイミィ。中々良い女だったぞ。そのシミと髪の乱れさえなければな。」
「そ、そんな…!嫌ぁぁ〜!!」
私はあえて冷たい返答を返した。そしてエイミィは城の外へと消されて行った。これまでにも何人もの女性がこのような目に遭い、消えていくのを目の当たりにしてきた。でも私は立場上、それを止める事は出来なかった。そんな仕打ちを避けるためここにいる美女達は常におとなしくユダ様に服従しているのだ。エイミィの様子を見て周囲の美女達は恐怖を噛み締めていた。
 その夜、私はユダ様の部屋のベッドで彼と全裸で添い寝させられた。私にとってこのような男性との性行為は初めてだった。ユダ様に仕えてからというものこれは毎夜の事でユダ様の快楽の一つでもあった。同様に全裸のユダ様は私の身体を上から覆い被さり、肌をなでながら言った。
「ウ〜ン、いつ見ても美しい。その肌の艶やかさ、髪のしなやかさ、胸も尻も大きい。その上、強さも兼ね備えている。やはりお前は価値がある。こうして正解だった。気持ち良いだろう。もっと触れさせろ。」
「どうぞお好きになさって下さい。そんなにお気に入って下さるのなら…」
「本当に聞き分けが良いな。益々気に入った。でも俺の欲はこの程度では収まらん。いずれ、この世の全ての女を俺のものにしてやる。その時こそこのユダ様がこの世の天下を取る時だ。サウザーもラオウも目ではない!奴らは醜い!俺はこの世で最も強く美しいのだ!醜い奴らなど皆殺しにしてやるわ!フハハハ!」
この言葉をユダ様は毎度のように言っていた。私は全裸でベッドの上でその言葉をただ聞いているだけだった。
 それから後に新たに1人の女性が連れて来られた。ユダ様が特に気に入ったらしく、直々に浚ってきたらしい。
「ウム、いつ見ても実に良い女だ。その美しさを俺に一生捧げろ。お前も今日から俺の女だ。十分楽しませてくれ。フハハハハ!」
その女を見て高らかに笑うユダ様。正に最高の獲物だった。しかし何故かその女を見ていて私は不思議と惹かれた。
 それから2週間後。ユダ様は早くもその女に見切りを付けようとしていた。その女はボロボロの状態で牢屋に閉じ込められ、ただ怯えるだけだった。その夜、私はこっそりとその女を助けた。鎖を解き、牢屋から出した。
「あ、あなたは…?」
「静かにしろ。話は後だ。お前を逃がしてやる。ついて来い。」
「ハ、ハイ・・・」
そう囁いて私は密かにその女をつれて馬に乗せ、遠くへと逃げた。ある程度城から離れた場所に着くとその女を馬から降ろした。
「送ってやれるのはここまでだ。ここから先は一人で自分の村まで帰れ。」
「どうして私を助けてくれたの?」
「お前のような女、あのようなままにしておくのは惜しい。それに…」
この女を逃がす最大の理由が私の最も尊敬するある一人の女性に似ているからなどとても言えなかった。
「それに?」
「いや、何でもない。それよりお前にこれだけは言っておく。女を捨てろ!」
「女を…捨てる?」
「今の時代、良い女ほどハイエナどもの獲物になり売り飛ばされ強姦されるのがオチだ。そんな時代を生き抜くためには女も男と同様戦うしか道は無い。私はそのためにとうに女を捨て戦士となった。お前も二度とこんな目に遭いたくなければ女を捨てて戦え。守りたいものがあるなら尚更だ。」
「ハ、ハイ…そうします。」
「ユダ様には私の口から何とか誤魔化しておく。さっさと逃げろ!」
「わかりました。戦います、私。最後に…あなたの名前は?」
「シグナムだ。お前は?」
「マミヤ。」
「マミヤか。ではマミヤ、死ぬなよ。」
「ありがとうございます。シグナムさんこそお気をつけて。」
そう言ってマミヤは逃げ去った。それからすぐに追っ手の兵士が来た。
「シグナム様!マミヤが逃げました!こっちに逃げて行ったはずなのですが・・・」
「ああ、私もそれに気付いてここまで追って来たのだが逃げられてしまった。」
「そうですか。でもまあ、あの女はどちらにせよユダ様に捨てられる運命。これでよろしいでしょう。」
「そうだな。さあ、帰るぞ。」
その後、マミヤは私の言った通り女を捨て自身の村の女リーダーになったという噂を聞いた。そうだ。それで良いんだ。女であろうと戦えば…

3.ユリアの死

 ある日の夜、他軍の偵察から帰って来た兵士が驚くべき報告を持ち帰った。
「ユダ様と同じ南斗六聖拳の一人、南斗孤鷲拳・殉星のシン様の組織・KINGと都市・サザンクロスが内部からの反乱により崩壊しました!」
それを聞いてユダ様は鼻で笑いながら言った。
「ほう。シンめ。やたらでかい組織や都市を築いた割には中から反乱を起こされるとは馬鹿な奴よ。で、シンと奴の姫君のユリアはどうなった?」
「はい。それがユリアはシン様の行動や目の前の光景の悲惨さの余り絶望し居城からその身を投げ出し、自殺しました。そしてシン様はその後、北斗神拳のケンシロウに敗れ死にました。よって今やサザンクロスは死の都です。」
え?ユリアさんが…死んだ…?
「そうか!シンもユリアも死んだか。シン、同じ南斗六聖拳でありながらつくづく愚かで憐れな奴よ!ユリアを己の者にしようと無茶をするばかりに死に追いやってしまうとは。その上挙句の果てにケンシロウに殺されるとはな!笑わせてくれるわ!しかしユリア、死ぬには惜しい女よ。あの女も近々こちらから奪って俺のものにしたいと思っていたのだがまあ良い。代わりはいくらでもいる。報告ご苦労!実に面白い報告だ。笑いが止まらんわ!フハハハハ!」
そう言って高笑いをあげながらユダ様はその場を離れ部屋に戻った。
しかし私はその報告に愕然とした。私は城の外に出て夜空を見上げながら思い出した。ユリアさんが…あのユリアさんが…そんな・・・。
 あれは核戦争の前。私が拳の修行に明け暮れていた頃の事だった。私には幼い2人の妹・ハヤテとヴィータがいた。ハヤテは病気で両足が不自由な身体だったが誰にでも元気で明るく優しく、ヴィータは男勝りで喧嘩っ早くやんちゃな性格だったが正義感や思いやりのある共に良い娘だった。両親は既に他界し、私は修行や仕事で忙しくほとんど家にいなかったため、その間はとある施設で2人の面倒を見てもらっていた。そこでよく2人の面倒を見てくれていたのがユリアさんだった。私も2人の送迎に行く際、彼女とよく顔を合わせていた。彼女はいつ見ても実に美しく、誰にでも優しく、笑顔を絶やさない、正に誰からも愛される絵に描いたような絶世の美女だった。私から見ても理想の鏡だった。ちなみに彼女の恋人であるケンシロウもその施設に時々訪れ、一緒に子供達と遊び、ハヤテとヴィータとも過ごしていた。ハヤテの優しさやヴィータのやんちゃぶりにはケンシロウもよく感心して驚いていたらしい。ケンシロウとユリアさんはこの頃から既にお似合いの恋人同士だったようだ。そんなユリアさんと何度か直接、話をした事もあった。あれはある 休日の際、私の方からお礼に出向いた時の事だった。私は施設のシスターの1人に尋ねた。
「ユリアさんはおられますか?お礼とお話がしたくて来ました。」
「ハヤテちゃんとヴィータちゃんのお姉さんですね。わざわざご丁寧にありがとうございます。ユリア様なら事務所の方におられます。すぐにお呼びしますので屋上の広場で少々お待ち下さい。」
そう言うとそのシスターはユリアさんを呼びに行き、私は言われた通り、屋上の広場まで行き待った。すると数分後にユリアさんが来て、私達はそこから見える街の景色を眺めながら1対1で話をした。
「いつもありがとうございます。妹達のお世話をしてくださって。」
「いえいえ。ハヤテちゃんもヴィータちゃんもいつも元気で良い子でこちらも嬉しいですよ。シグナムさんこそ毎日修行の方大変そうで。」
「これくらい当然です。南斗の拳士として強くなるのが夢ですから。」
「そうですか。でも何故そこまで強くなろうと思うのですか?」
「この世界を生き抜くためです。今、この世の到る所で争いが絶えない。そんな争いがこの世を破滅に導くような事に繋がるかも知れない。そんな事が起きた時、己と誰かを守るために私は誰よりも強くなりたいのです。」
「なるほど。それはわかります。北斗と南斗。共に限りない強さを目指す拳法ですから。でも強くなろうとし過ぎて己を見失ったりはしませんか?」
「それはどういう意味ですか?」
「人は強さを求め、強さに溺れる。それ故に他人を平気で傷つけ殺め、悲劇を繰り返してきました。そしてその悲劇は今も続いています。私はそんな悲劇に子供達を巻き込みたくない。そのためにここで子供達を温かく見守っております。あなたもそんな悲劇に巻き込まれてしまう事はありませんか?」
「悲劇・・・そんな事はありません、決して。」
「そうですか。でもあなたもどんなに強くなろうとも自分らしさだけは決して忘れないで下さい。その力を誤った道に使う事のないように…」
「ありがとうございます。でもどうしてそこまで心配して下さるのですか?」
「私もあなたと同じ南斗の女ですから。」
「そうだったのですか。では拳法の心得を?」
「いいえ。ございません。私はただ南斗と北斗を見守るだけの女です。あなたも陰ながら見守っていますよ。頑張って下さい。」
「こちらこそ。」
私は彼女のそんな温かい言葉と優しさにただ感心した。とても私には言えない言葉だった。強さに溺れる・・・確かにその通りかもしれない。だが、全てが崩れ去った今、この世は彼女の言うような強さに溺れる者達で溢れ返ってしまった。そして私はそれに立ち向かい、生き残るために戦う女となってしまった。こんな腐敗した世界を彼女はどう思っているのだろう?いつもそう考えていた。シン様の居城で暮らしているという事から先は知らなかったがまさかこんな悲劇になっていたとは思いもしなかった。あのユリアさんが死んだなんて…。私はただ悲しみに明け暮れた。夜空を見上げ、壁にもたれかけたまま涙が止まらなかった。この乱世は優しき純粋な乙女の存在さえ許さず命までも奪い去ってしまうものだというのか?あまりに哀し過ぎる…。これも運命なのか…。

4.美しき拳

 その後、月日は流れ、レイ様がケンシロウやマミヤと共に行動し、牙一族などの悪党どもを次々と滅ぼしていると言う知らせを聞いた。レイ様は無事にアイリさんを取り戻したらしく私は安心した。今なら再びレイ様とご一緒させてもらうかも知れない。いや、駄目だ。南斗の戦士である以上は一度決めた道を変えるわけにはいかない。私は既にユダ様に忠誠を誓った身。ユダ様が死にでもしない限り私はこの身から逃げる事は出来ない。レイ様はもうマミヤ達と共に生きる事を選んだ。もう私は彼の何でも無い。彼の事は忘れた。彼が死のうがどうなろうがもはや知った事ではない。私は生まれてこの方、どんな事も決して後悔はしない女だった。だから今回の事も後悔などしなかった。
 しかしそんな中、レイ様に死期が迫っている事を突然知った。彼はあの世紀末覇者・拳王に戦いを挑み、逆に秘孔・新血愁を突かれ残り3日の命となってしまったらしい。ユダ様はその報告を聞いて喜んだ。
「レイが残り3日の命?それは実に喜ばしい事だ!これで奴も終わりだな!」
ユダ様はレイ様を大変お嫌いだった。過去にレイ様の華麗な動きに心を一瞬奪われて以来、プライドを傷つけられた彼はレイ様を目の敵にしていつか自らの手で醜く倒してやろうといつも考えていた。そんな彼にとってこの知らせは非常に嬉しい限りだった。しかし私にとっては痛い知らせだった。
 そしてそのレイ様とケンシロウがマミヤとユダ様の因縁を知り、マミヤの敵であるユダ様を倒そうとこちらに向かっている事を知った我々はユダ様と一旦城を離れる事となった。ユダ様がダガールに言った。
「ダガール。我らはこれよりブルータウンに赴く。その間、この城の事はお前に任せる。この城に無断で入ってきた奴は構わず殺せ。頼んだぞ。」
「ハハア!お任せを。行ってらっしゃいませ。」
そう言ってユダ様と我々親衛隊は城を離れた。実はブルータウンに赴くというのはただの口実。レイ様達の力量を確かめ、罠にはめるため暫くの間その場を離れるだけというユダ様の策略であり、ダガールはそのための捨て駒だった。それを城に残った者は誰も知らされていなかった。
「でも、よろしいので?ダガールはあれでもユダ様の優秀な副官の一人。こう簡単に捨て駒にするのは…」
私はユダ様に言った。だが彼はあっさり答えた。
「構わん!お前も知っているであろう。俺は美と知略の星・妖星の男。これくらいの作戦は当然だ。敵を欺くにはまず味方から。部下の1人や2人捨てるくらい惜しくも何とも無い。奴にはレイとケンシロウと闘い力量を量ってもらう。更にその間レイは残り僅かな命を無駄に削る事となる。見事な作戦であろう。」
「・・・確かに。」
目的の為なら部下も平気で見殺しにする。正に非情なお方だった。
「そんな事のために俺を利用したのか〜!!」
「貴様にはもう用はない!死ね!南斗鷹爪破斬!!」
「ギャアア〜!!」
その後、ユダ様の計画通りダガールはケンシロウに敗れ、さらにその後戻ってきたユダ様に処刑された。レイ様はついに最期の1日となったところをトキに秘孔・心霊台を突いてもらい残りの潜在能力を全て引き出され余命を1日だけ延ばしてもらったらしい。その際、レイ様の髪は白髪に変わったそうだ。その知らせを聞いたユダ様は自ら一騎打ちに出ようとした。
「シグナム。お前はここに残れ。お前には俺が帰ってくるまでの間、城の留守を任せよう。持ち帰ったレイの首を見せてやる。今こそ我が妖星が最も美しく輝く時だ。楽しみにしてるが良い。フハハハハ!」
ユダ様は余裕の表情でコマクら兵士を率いてレイ様が待つマミヤの村へ出かけた。だが不思議と嫌な予感がした私は後でこっそりその様子を見に行った。すると戦いは今正に決着がつこうとしているところだった。
「南斗紅鶴拳奥義! 血粧嘴!!」
「南斗水鳥拳奥義!飛翔白麗!!」
2人の究極奥義がぶつかり合った。その結果、先に奥義をぶつけたのはレイ様の方だった。瀕死の状態となったユダ様はレイ様に本心を打ち明けた。
「レイ…お前は俺より美しい男…せめてその胸の中で死なせてくれ…」
「ユダ…お前もまた孤独な男だ…」
そう言い合いながらユダ様はレイ様に倒れかけ、死んだ。
 そしてその夜。ついにレイ様にも最期の時が訪れようとしていた。
「マミヤ。お前の仇は討った。これでお前の戦う宿命は絶たれた。これからは1人の女として自由に生きろ。幸せにな!」
「レ、レイ・・・。ありがとう。もう私は戦わない。女として生きるわ。」
「ケン。お前と一緒に戦えて本当に良かった。乱れたこの世と南斗を止められるのはお前だけだ。頼んだぞ。トキにも礼を言っておいてくれ。」
「ああ。わかった。死んでも俺の心の中で生き続けろ。」
「リン、バット。お前達も元気でな。」
「レイ!」
「アイリ。先に死ぬこんな兄貴を許してくれ。俺の分も長く生きるんだぞ。」
「兄さん…!ありがとう!私、死んだお父さんとお母さん、それに兄さんのためにもこの村でずっと生きるわ。兄さんも天国にいるお父さんとお母さんに会ったらそう伝えておいてね。」
「ああ、わかった。親父とお袋とも一緒にあの世からお前を見守っていよう。だから何も恐れるな。ん?」
「どうしたの、兄さん?」
「何やら忘れていた懐かしい気配をすぐ近くに感じたのだが、気のせいだ。ウッ・・・!グハッ!」
「レイ!また秘孔が・・・!」
「…これでもう思い残す事は無い。それでは…みんな、さらばだ・・・!」
レイ様はこうして仲間達や村人に見守られながらその村で短い生涯を終えた。南斗六聖拳がまた1人、2人と消えた。そんな2人の最期を人知れず見届けた後、私は静かにその場を去った。

5.世紀末覇者・拳王

 レイ様もユダ様も死んだ今、私が望むべき主はただ1人。それは世紀末覇者・拳王だった。あのレイ様ですらいとも簡単に倒したほどだ。もはやこの世を統べるべき者は彼の他にいない。私はあれからしばらくして拳王のいる拳王城へと足を運んだ。巨大な居城だった。さすがこの世紀末屈指の権力を持つだけの事はある。正にその象徴だった。
「頼もう!」
私は門番に言った。
「何者だ貴様!?」
「我が名はシグナム。拳王様にお会いしたく参った!中に通してもらいたい!」
それから少しして許可が下りたのか私は城の中に入ることができた。その奥で待つ巨漢こそ拳王こと北斗の長兄・ラオウだった。
「この拳王に自ら会いに来るとは貴様、何者だ?前にどこかで会った事があるような気がするが…」
「私は南斗108派の一つ・南斗烈火拳のシグナムと申します。」
「シグナム?フッ、思い出したわ。昔、よく手合わせのために出向いていた南斗の道場にいた娘か。ユダに仕えていたという噂は聞いていた。中々見事な戦いぶりを見せていたそうではないか。随分とたくましくなったな。」
「覚えておられ、その上、お褒めいただき光栄です。私は以前からあなたや南斗六聖拳の方々を見習い、日夜修行と戦いに励んできました。そして今や南斗六聖拳の次に強いとまで謳われるようになりました。今もその強さを戦いの中で磨き続けております。」
彼の言う通り、私がかつて修行していた南斗の道場に彼とトキはよく訪れ、南斗の拳士と稽古の為に手合わせをしていた。こちらからも時々、彼のいる北斗の道場へ赴き、彼の修行の様子を見ていた。その頃から彼の強さは大きく感じていた。そしてユダ様の組織は拳王軍とも繋がりがあった。そのため私に関する情報も知れ渡っていたようだ。それなら話が早かった。ラオウが聞いた。
「そうか。で、そんな貴様がこの俺に何の用だ?」
「このシグナム、拳王様に仕えさせて頂きたくこうして参りました。」
「ほう?俺の部下になりたいと言うのか?」
「今の私ならあなた様の右腕として戦える事を保証します。あなた様の為ならこの命、いつでも捨てる覚悟でございます。」
するとラオウの隣にいた兵士が彼に言った。
「拳王様!このような者を右腕などにしてよろしいのですか?何か裏があるに違いありません!今すぐ追い返しましょう。」
私を疑う兵士。だがラオウはこう返答した。
「面白い!シグナム、今日からお前を我が直属の副官に命ずる!お前のその表情、眼の輝き。偽りは無い。貴様の拳、強さ。これからはこの拳王の為に存分に振舞うが良い!」
ラオウ・・・いや、ラオウ様は昔から相手を一目見ただけでその素質や才能、考えを見抜く事の大変上手なお方だった。それを信じてこうしてお願いに来た甲斐があった。それに私は修行時代から彼の戦いぶりを見てその立派な強さやたくましさに憧れを抱いていた。これで望みは叶った。
「ありがたき幸せ。このシグナム。一生あなたについて行く事を誓います。」
こうして私は最大の主を見つける事に成功した。

6.戦の日々

 それからと言うもの、私は新たな甲冑を身に纏い、ラオウ様直属の副官として行動を共にした。各地に情報網を張り巡らせ、その送られてくる各地の敵などの情報を基に彼に逆らう鬼王、獣王、星王、智王などあらゆる王と呼ばれる者が率いる敵軍を滅ぼし、次々と街や村を制圧して行った。正に殺戮の日々だった。私もラオウ様に逆らう敵は容赦なく殺した。敵軍を滅ぼす毎にその軍の降伏した兵士は全員我が軍に従い、制圧していた領土も全て乗っ取った。降伏してひざまずく人々の前で軍を代表して私が宣言した。
「これよりこの地は我が拳王軍の支配下に治める!この地の全てはこの世の覇者・拳王様の物!お前達は拳王様のために働くのだ!逆らう者は容赦なく殺す!そうなりたくなければ拳王様に従え!わかったな!」
拳王様の前での私の宣言を聞いて目の前の者どもは怯えながら拳王様に土下座した。こうして人々の拳王様への恐怖はさらに広がり拳王様の目指す覇業はまた一歩と近づきつつあった。そして私は短い間に多大な功績を挙げ、いつしかラオウ様の最も忠実な副官にして右腕と呼ばれるほどとなった。
そんな中、我が拳王軍に怯む事無く逆らい続け、拳王様と同様の野望を持ち、大勢の兵士を従え、多くの領土を支配下に治めるならず者の敵軍があった。それが冥王率いる冥王軍だった。奴らはこれまで拳王軍が滅ぼしてきた王と名乗る者の軍の中で最も厄介な存在だった。そんな奴らとついに真っ向勝負を迎える時が来た。出陣する直前、私はラオウ様の前で兵士達を前に叫んだ。
「良いか!皆の者!敵を恐れ力萎える者は前に出よ!覇業の大儀は拳王様にあり!天がそれを望むのだ!!ここにおられる拳王様こそ神いや、神をも凌駕したお方なのだ!その真の神のために我々は戦うのだ!拳王様の敵は我らの敵!全て皆殺しにせよ!真の武人ならば死など恐れるな!負けは許されぬ!」
「ウォォォ〜!!」
私の宣言を聞くと兵士達は高らかな叫びを上げた。全員やる気が満々になったようだ。それを見てラオウ様が私に言った。
「よく言った、シグナム。これだけの兵士をすぐに統一させるとは。それでこそこの拳王の右腕。貴様を我が軍に入れた事に間違いは無かった。」
「ありがたき幸せでございます、拳王様。」
「しかし自惚れるな。貴様といえど負けは許さぬ!わかっておるだろうな!?」
「無論、承知の上。敵に負けるくらいなら死んだ方がマシでございます。」
「良い覚悟だ。では行くぞ!」
「ハッ!!」
こうして我々は決闘の場所へと向かった。
場所に着くと冥王軍が我が軍以上の兵士を率いて既に待ち構えていた。ラオウ様を見て冥王がでかい声で言った。
「やっと来おったか。怖気づいて逃げたのかと思ったぞ。」
「貴様如きに臆する拳王ではないわ!」
「そうか!しかし何が世紀末覇者よ!この世を統べるのはこの冥王様よ!」
「冥王とは本来、死者の国の王。そんな奴にこの世にいる資格はないわ!すぐに本来いるべきあの世へ逝け!」
「馬鹿め!この世もあの世も同じよ!お?その隣にいる女は噂に聞いている貴様の新しい部下か?女を味方につけて現れるとは見くびられたものだな!」
「甘く見るな。こやつは女と言えども俺の部下の中でも最も忠実な戦士。貴様の兵士など俺の手を汚すまでも無くこやつがひねりつぶしてくれるわ!」
(ラ、ラオウ様…そこまで私の事を…)
ラオウ様のそのお言葉に私は嬉しかった。
「女子供だろうと邪魔者は殺してくれるわ!かかれ!皆の者!」
そう言うと冥王軍の兵士達は一斉に襲い掛かってきた。それに対し私もラオウ様に代わって後ろの兵士達に合図を出した。
「我々も行くぞ!かかれ〜!!」
こうして拳王軍と冥王軍の戦が始まった。お互い次々と兵士の犠牲を払いながら戦は進んだ。ラオウ様も近づく兵士を巨大な黒王号の足で踏み潰し、自慢の闘気で次々と粉砕した。私も負けていなかった。ラオウ様の先ほどのお言葉。それだけ彼は私に期待して下さっている。それを裏切るわけにはいかない。
「南斗烈火拳奥義・紫電一閃!」
この奥義は南斗烈火拳の極意の一つだった。そんな技を今はラオウ様のために使い続けた。私はこの技で兵士の大半を殲滅した。戦いが熾烈と化す中、冥王が私を見てラオウ様に言った。
「南斗烈火拳か。中々やるではないか。良い女を部下にしたな。拳王よ!」
「クズどもばかり従える貴様などとはわけが違うわ!」
「こうなれば俺が相手だ!拳王、覚悟!死ね!泰山地獄爪!!」
冥王は自らの技を繰り出しついに自らラオウ様に真っ向勝負を挑んできた。するとラオウ様は右手から強烈な闘気を放出する奥義を出した。
「死ぬのは貴様だ!北斗剛掌波!!」
冥王は乗っていた武装バギーもろともその奥義に吹き飛ばされ後ろの岩山に激突した。しかし奴はバギーから降りてまだ抵抗しようとしてきた。
「何のこれしき・・・まだまだ!もう一度我が泰山地獄爪を喰らうがいい!拳王!」
だが勝負は既についていた。
「冥王よ。貴様はもう死んでいる。貴様に最も相応しい冥界へ逝け!」
ラオウ様がそう言うと冥王の身体が膨らみ、爆発した。
「そんな馬鹿な・・・!この・・・冥王が・・・!ひ・・・ひ!で!ぶ~!!」
こうして冥王軍は壊滅した。残った軍の兵士は全員降伏し、手にしていたもの全ては我が軍のものとなった。こうして拳王軍がまた一つ天下を取った。
私はこのようにしてラオウ様の戦いぶりを何度も目の当たりにしてきた。全てを粉砕する豪拳。それだけでない。彼は知力も大変優れていた。相手の中身を一目で見抜く鋭さもそうだが、目的を果たすためにも常に考えを持っていた。かつてシン様の組織・KINGにおいて将軍と言う立場でありながらシン様に反逆し、その身を犠牲にしながらも組織とサザンクロスを崩壊へと導いたバルコム。実は彼はラオウ様がKINGを中から滅ぼし、乗っ取るために送り込んだ拳王軍の密偵だったのだ。彼はラオウ様の命令通りKING崩壊は成功させたが、最大の目的であったユリアさん奪還までは行かなかった。この時以外にも同様に送り込んだ密偵によって中から滅ぼした敵軍も多い。これもラオウ様の見事な作戦のたわものであった。人々は彼を恐怖し続けるがその恐怖こそ覇業最大の糧。恐怖は乱れた世界を治める絶対的な力なのだ。彼の考えに間違いは無い。ユダ様に仕えていた頃はあくまで彼が南斗六聖拳である故に仕方なく忠誠を誓っていた。だが今は違う。私は心の底からラオウ様に忠誠を誓っている。この方になら全てを託せる。迷いも何も無い。私はそんな彼に全てを捧げたい。

7.ラオウの本心

ある日の夜、ラオウ様は私を呼び出した。
「シグナムよ。ついて来い。お前に見せたいものがある。」
そう言われ私は静かな夜中、馬に乗ってラオウ様について行った。辿り着いた先はとある岩山だった。そこに4つの墓石がある。
「ここは一体?それにこの墓は?」
私はラオウ様に尋ねた。すると彼は答えた。
「ここは俺が子供の頃、少しの間だが育った場所。そしてこれは俺の育ての両親の墓。残り2つは俺と俺の弟のためにある。」
「育てのご両親?実のご両親ではないので?」
「ああ、本当の両親は別の故郷にある墓で眠っている。」
「では弟とはもしやトキの事で?」
「そうだ。俺とトキは実の兄弟でもある。よくわかったな。」
「私の師匠はあなた方の師父リュウケンともちょっとした関わりがありました。その際、あなたとトキは血の繋がりがある事も噂で知りました。」
するとラオウ様は私だけに自身の知られざる生い立ちを語ってくれた。
「そうか。それなら話が早い。俺とトキは修羅の国で4人兄弟の次男と三男として生まれた。」
「修羅の国…大昔から戦いだけが支配するというあの伝説の国。」
「そうだ。そのために俺達は幼い頃から厳しい環境で育った。だが子供の頃、俺達の両親は争いに巻き込まれて死んだ。その後、俺達兄弟は2つに引き裂かれ、別々に預けられる事になった。俺とトキは知人の計らいでこの国に渡り、両親の友人であったある夫婦の養子となった。」
「それがこの墓に眠っている育てのご両親なのですね。」
「そうだ。だがその両親も後に戦と病で死んだ。その後、俺達を引き取ってくれたのが北斗神拳先代伝承者リュウケンだった。後にジャギとケンシロウも養子に迎えられ、俺達4兄弟は北斗神拳次期伝承者候補として厳しい修行の日々を強いられた。俺はそんな日々を送り続けるうちに知った。己の拳の強さこそがこの世を支配すべきものだと。シグナムよ、うぬには肉親がいるか?」
「両親は既に他界しましたが、2人の妹がいます。」
「その妹達もうぬと同様、南斗の拳を?」
「いいえ、拳を学んだのは私だけで妹達は今はとある村に預けて普通に過ごしております。妹達にまで私と同じ苦労は味あわせたくなかったですから。」
「では問題はあるまい。しかしうぬはそんな肉親でも殺す事は出来るか?」
「それは…出来ません。」
「家族思いだな。俺の北斗神拳は一子相伝。それ故に伝承者はこの世でただ1人。そのために俺達兄弟は日々、伝承者の座を巡り争い、たとえ兄弟であろうといつでも殺す覚悟だった。」
「そんな…。何と過酷な宿命…。」
「そしてあの核戦争の後、北斗の長い歴史は変わった。師父リュウケンはケンシロウを伝承者に選び、強くなり過ぎた俺の拳を封じようとしてきた。だが俺はリュウケンを返り討ちにした。」
「その手で殺したのですね。育ての師父を…」
「そうだ。俺は師父を殺した。だが何も後悔はしなかった。敵は全てこの手で倒す。たとえそれが肉親であろうと。それが俺のモットー。」
「なるほど。そして今、あなたは実の弟であるトキ、そしてケンシロウとも決着をつけようとしている。」
「今や奴らは俺が倒すべき最大の敵。倒す事に何の躊躇いも無い。シグナム、お前はこれまで倒した敵の名前や顔を全て覚えておるか?」
「いいえ、覚えておりません。所詮敵は敵。覚える必要などございません。」
「やはりそうか。俺もこれまで倒してきた敵や殺してきた奴らの事などいちいち覚えておらん。だがケンシロウは違う。奴はこれまで闘い、倒して来た相手を強敵(とも)と呼び記憶している。そしてその強敵達との出会いと別れを己の強さに変え、今尚、強くなりつつある。」
「強敵…。それがケンシロウの強さの源…」
「奴はこれからもさらに強くなりつつある。トキも難民との出会いや別れの悲しみを強さに変えてきた。トキとケンシロウ、奴らこそ我が最大の強敵(とも)。奴ら以外をそう認めるつもりなどない。」
「あなたはトキとケンシロウを倒す事を目標としておられるのですね?」
「左様。この世を制圧し、奴らを倒した時こそ我が野望が達成される時。そのためにもシグナム、お前にもまだ頑張ってもらわねばならぬ。トキとケンシロウを倒すのはこの俺!それ以外の敵はお前に任せよう。」
「承知いたしました。あなた様の敵は私の敵。全て倒してみせます。全てはあなた様の覇業成就のため。」
「そうか。よく言った。奴らとはいずれここで決着をつける。」
「しかし何故そのようなお話を私に?」
「お前は俺のためによく働いてくれている。他は報酬のために俺に従ってるような欲の浅い奴らばかりだ。だがお前は違う。お前には下心や偽りが無い。短い間にこれだけの功績を挙げたのはお前くらいだ。前に俺の気を惹こうとやたら媚を売ってくる馬鹿な部下が1人いた。俺が欲しいのは媚などではない。納得させるだけの戦力だ。そいつには戦力など皆無に等しかった。」
「媚ですか。馬鹿な奴ですね。そいつは今どうしているので?」
「あんなドブネズミ、すぐに追い出してやったわ。」
「当然ですね。でもそいつは今頃あなたの事を相当怨んでいる事でしょう。」
「関係ない。俺を怨んでる奴など星の数ほどいるのだ。そんな奴らの中のほんの1人に怨まれようがどう思われようが何とも思わん。」
「でしょうね。怨んでるならその怨みを買って返すまででしょう。」
「それと比べお前は一切媚びずに俺を十分納得させてくれるだけの力を持っている。お前こそ俺が求めていた理想の部下。そんなお前を副官にした事に後悔はしていない。それにお前を見ていると昔の俺を思い出す。だからお前にだけ特別にここに連れて来て俺の本心を打ち明けさせてもらった。」
「そんな…それほどでは…」
ラオウ様が他人を誉める事は大変珍しい事だった。この私を直々誉めてくださるなんて嬉しい限りだった。そしてラオウ様はこう言った。
「お前にはまだまだやってもらいたい事もある。頼んだぞ。」
「ハイ。ありがたき幸せ。何なりと申し上げてください。それより修羅の国では4人兄弟と言っておられましたがあとのお2人はどのようなお方でそれからどうされたのですか?」
「兄と妹だ。兄はよく手合わせしていた当時の俺にとって1番の見本だった。妹はまだ幼かったが良い目をしていた。2人は俺とトキが故郷を離れてからも修羅の国に残った。その後の事は何も知らん。」
「そうですか…。きっと今頃、お2人も心配されておられるでしょう。」
「さあな。親が死んでから兄は人が変わったから俺の事などとうに忘れているだろう。妹も俺の事など覚えてはおるまい。別に心配されようとも覚えていてもらおうとも思わん。よってこちらも心配などしていない。だが、我が覇業を成就した次は故郷を…修羅の国を必ずこの手で治める!」
「修羅の国を?」
「あの国は俺が生まれる以前から今のこの世界のように腐敗が絶え間なく続く荒れ果てた国だった。俺はそんな国を救う為に強さを目指し北斗神拳を学び、こうして覇者となったのだ。力には力で治める他無い!」
「そうだったのですか。正に素晴らしいお考え。」
「そのためにもお前の力をこれからも貸して欲しい。良いな?」
「ハイ。どこまでもついて行きます。」
「では城へ帰るぞ。長い話に付き合ってもらい感謝する。」
そうして私とラオウ様は城へ戻った。私は誰も見たことの無いラオウ様の人柄の良さに感動した。彼はただ私利私欲のために拳王となったのではない。力と恐怖で世界を統一させ、修羅の国を救おうという強い意思のためなのだ。そして彼は私を認めて下さっている。その期待に何としてでも応えたい。私は今日の事を決して忘れる事はないだろう。そして他の誰にも話はしないだろう。

8.南斗の宿命

 ある日、私とラオウ様は崖の上からとある居城を見つめていた。その城の前では巨大なピラミッドの建設が進んでいた。その労働力に奴隷として各地からつれて来られた大勢の子供達が使役されている。そのピラミッドこそ南斗六聖拳の1人にして最強つまり南斗108派の頂点に立つ存在・南斗鳳凰拳のサウザー様の聖帝十字陵だった。独裁の星・将星を持つ彼は自らを聖帝と名乗り、ラオウ様同様、この世の覇権を狙う脅威の存在だった。聖帝十字陵はその覇権の誇示のためのものだった。いつもならすぐにでもその聖帝軍に戦いを挑んで潰しにかかっているところだった。だが、ラオウ様はそれを避けた。何故ならサウザー様には誰も知らない身体の謎があった。その謎を解かない限り彼には技が通じず決して勝つ事が出来ない事を承知していたからであった。
「サウザーめ、良い気になりおって・・・!」
ラオウ様が呟いて私は答えた。
「彼はラオウ様に対抗すべくあのような巨大な建物を子供達に造らせながら覇業を狙っております。どうします?今からでも戦いを仕掛けますか?」
「構わぬ!今は放っておけ!いずれ全て叩き潰す!それまで我らは居城にて別の作戦を考えるのみ。」
「そうですか。わかりました。では戻りましょう。」
そうして我々は拳王城へと戻った。ラオウ様は大変プライドを抑えている事がよくわかった。その気持ちは私も同じだった。
「僕が囮になります。その間にケンシロウさんは逃げて下さい!そして帰ったら父さんにこうお伝え下さい。「先に母さんと天国で待ってます。今まで育ててくれてありがとう。先逝くこんな息子をお許し下さい」と。それでは!」
「ま、待て!シバ〜!!俺は…シュウだけでなくその息子にまで命を救われた…と…言う…の…か…。ウッ・・・」
 それからある日の夜。馬に乗って歩いていると風が吹く荒野に1人の男が倒れているのを見つけた。その男はケンシロウだった。その日の前日、私はラオウ様からこんな命令を受けていた。
「シグナムよ。ケンシロウを救い出し、シュウの下へ届けよ。」
彼はサウザー様に敗れ聖帝十字陵の人柱にするために捕らわれたケンシロウを救出しろと言うのだ。その命令に最初は戸惑った。
「しかし、よろしいので?」
「構わぬ!今の奴にはまだやってもらわねばならぬ事がある。それに前にも言ったはずだ。奴を倒すはこのラオウの拳をおいてのみ!そんな簡単に死なれては困る。奴は更なる敵を倒し、さらに腕を上げた時こそ倒す価値がある。」
 ラオウ様はケンシロウにサウザー様の身体の謎を解かせた上で倒させるつもりでもあった。これも作戦の一つなのだ。私は気を失っているケンシロウを馬に乗せて走った。向かった先はシュウ様が率いるレジスタンス・反帝部隊の秘密基地だった。入り口の前に立つと門番に声を掛けられた。
「ん?貴様、何者だ!?ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」
「私は拳王様直属の部下・シグナム。ここにおられる反帝部隊のリーダー・シュウ様に用があって参った。」
「シュウ様に何の用だ!?拳王の手先となれば尚更怪しい!」
「安心しろ。戦いに来たのではない。届け物を届けに来ただけだ。」
そう言って私は後ろで気を失いもたれかけているケンシロウを見せた。
「け、ケンシロウさん!?早くシュウ様を呼べ!」
「わ、わかった!シュウ様〜!」
門番が驚いてそう言うともう一人の門番がすぐさま、シュウ様を呼びに行った。そしてすぐにシュウと2人の子供がやって来た。その子達は噂に聞いていたケンシロウと行動を共にしているというバットとリンだった。
「ケン!」
バットとリンは大変慌てていた。私はそのままケンシロウをシュウ様達について行き奥の部屋のベッドに寝かせた。リンが言った。
「どうしてあなたがケンを?」
「荒野に倒れているところを偶然見つけた。安心しろ。気を失っているだけだ。応急処置はしておいた。その内目を覚ます。」
「そうだったんだ。ありがとう。」
リンは私に礼を言った。そしてシュウ様が言った。
「久しぶりだな、シグナム。」
「こちらこそお久しぶりです、シュウ様。」
バットがシュウに聞いた。
「この女、知ってんのか?シュウ。」
「ああ。彼女は私と同じ南斗聖拳を学んだ女性だ。よく修行先で顔を合わせて手合わせもしたものだよ。以前から烈火の騎士と呼ばれ強かった君が今は拳王に仕えているとは驚きだよ。」
「今は拳王様直属の副官を務めております。今回の件も拳王様に命じられケンシロウを助けここまで連れて来ただけです。」
「拳王…ラオウが?」
「はい。お生憎ですがこれ以上の事は言えません。でもご安心下さい。拳王様はあなた方とサウザー様の戦いに割り込むつもりは一切ありません。だからこの場所を拳王様に教える事もありません。」
「そうか。それなら良い。」
「しかしシュウ様こそその見えない目のままで人々のためにこのような組織を築いてまで戦っておられるとは驚きです。」
「驚く事は無い。目は見えずとも心で周りの様子はわかる。君もよく知っているだろう。人々のために戦うのは私の宿命。そのためならいつでも命を捨てる覚悟だ。罪の無い子供や力の無い者から自由を奪う事など決して許さん。」
「相変わらずお人好しですね、あなたは。昔から何も変わっていない。むしろ益々優しくなっている様子で。今のこの時代、そんな優しさだけでは生きてはいけませんよ。他人の心配をする前に自分の心配をしたらどうですか?」
私は敢えて南斗六聖拳のシュウ様に生意気な口を利いた。彼は昔からどんな相手に対してもあまりにお人好しと言いたい程にとても優しかった。するとバットとリンが私のそんな発言に対し怒って言った。
「何だと!?シュウはなあ!サウザーの組織の連中に狙われてる子供達を守るために必死で戦ってるんだぞ!それのどこがいけないってんだよ!?」
「そうよ!あなたにシュウの何がわかるっていうの!?他人に優しい事は絶対おかしい事なんかじゃないわ!それにシュウのこの両目だって…」
シュウ様がそんな2人を止めた。
「2人共、落ち着け。リン、それ以上何も言うな。彼女は私がこんな目になった理由もちゃんと知っている。」
「そ、そうなの・・・?」
「でも放っとけるかよ!シュウも馬鹿にされて悔しくないのかよ!何かビシッと言ってやれよ!」
バットがそう言うとシュウ様は私の顔を見て落ち着いた様子で言った。
「シグナム、確かに君の言う通りかも知れない。でも私はこの生き方を変えるつもりは無い。己の宿命を真っ直ぐ生きるという事は同じ南斗の者である君もよくわかっているはずだ。だから君の生き方にとやかく言うつもりもない。君が今の道が正しいと思うのならその信じる道をひたすら進めば良い。」
「言われずとも最初からそのつもりです。」
「そうか。それより、ケンシロウと一緒に男の子の姿を見かけなかったか?」
「いいえ。私が見つけた時にはケンシロウが1人倒れているだけで他に誰の姿もありませんでした。そういや、そこから少し離れた聖帝十字陵の近くに大きな爆発の跡がありました。聖帝軍の兵士達を巻き込んだ爆発のようでしたが。」
「爆発!?それってもしかして…!シュウ!」
リンが驚いてシュウ様に言った。するとシュウ様は少し黙り込んだ末、言った。
「・・・そうか。わかった。それならいい。」
「では私はこれにて失礼します。」
「ありがとう。ラオウに礼を言っておいてくれ。」
「わかりました。シュウ様もお気をつけて。」
そう言って私はその場を離れ、馬に乗って帰りはゆっくりと歩いた。そうしながら私は思った。おそらくシュウ様が言っていた男の子とはシュウ様の息子・シバ。そのシバがサウザー様に捕まったケンシロウを助けようと聖帝十字陵に潜入して追っ手から逃がすために自らを犠牲にしたのだろう。あの爆発の跡がその証拠だ。間違いない。
「今より輝こうとする子供の光を奪う事は許さん!ただで命をくれとは言わん。代わりに俺の光をくれてやる。これで文句は言うまい。」
これは昔、サウザー様の南斗の道場で他流の敗者は死なねばならぬという掟の南斗十人組手に敗れた少年を救うためにシュウ様が周囲に放った言葉だ。私も当時、修行のためにその道場に通っていたため、その時の様子を近くで見ていた。勇敢に戦うその少年こそかつてのケンシロウだった。そんな彼の未来を信じたシュウ様は彼の命を奪う代わりに自らの両目を潰した。それ以来、シュウ様はより他人に対して優しい性格となった。シュウ様は他人のために情けをかけ、己の犠牲をも省みない仁星の男。その星の宿命はまだ幼い息子にまでも受け継がれていたのだ。シン様といい、レイ様といい、南斗の宿命とは実に悲しいものだ。そんな悲しい宿命の末路はいつか私にも訪れるのだろうか?しかしその時がいつ訪れようとも私は今の生き方を貫くだろう。どんな運命も乗り越える。それが南斗の拳士である故の掟だから…

9.ラオウとトキ

「俺は蟻の反逆も許さん。従わざる者は女子供といえど全て死あるのみ!奴らを助けて欲しければ貴様の命をもらおう。貴様に相応しい死に方を用意してある。連れて行け!」
(ケンシロウよ、聞け!我が魂の叫びを!!)
「ケンシロウ〜!!」
「シュウが…俺を呼んでいる…!」
 ある日、驚くべき報告が入った。シュウ様の反帝部隊の壊滅。シュウ様の処刑儀式の決行。そしてケンシロウがシュウ様を救うべく怪我を負いながら聖帝十字陵に単身で向かったという情報だった。その事を早速、屋上で景色を眺めているラオウ様に伝えた。するとラオウ様はこう呟いた。
「そうか。とうとうシュウも終わりか。ケンシロウも無謀よ。サウザーの身体の謎を解かねば勝てぬというものを…」
私はせめてもと思い、サウザー様についてほんの少し知っている事を教えた。
「サウザー様は子供の頃、育ての師父様との間で非常に哀しい出来事と遭遇した事がきっかけで一切の愛や情を捨てたという噂を聞いたことがあります。」
「愛?そんな事はどうでも良い。俺が今、最も知りたいのは奴の身体の謎。それさえわかれば奴などたわいもない。」
するとそこに1人の男が現れた。トキである。
「そんなにその謎が気になるのか?」
「あなたはトキ!」
「よくこの場所がわかったな。」
ラオウ様のその問いにトキは答えた。
「どこにいても互いの居場所を察知できる。それが我ら北斗の者の本能だ。」
さすが天才と謳われる北斗の次兄。知力はラオウ様以上かも知れない。
「そうか。で、俺に何を言いに来たのだ?」
「私はサウザーの謎を知っている。」
「何!?ではケンシロウもそれを?」
「いや、彼は自らの手で知ろうと断った。彼はあくまでも誰の手も借りず自らの手でサウザーを倒すつもりだ。それもラオウ、あなたを超える為に。」
「ほう?面白い。俺を超えるだと?そうか。ケンシロウはそこまで強くなろうとしているのか。」
「そうだ。あなたは北斗の長兄。伝承者となった今でもあなたを超えようと言うケンシロウの強い意志は変わらない。そんなケンシロウとサウザーの闘いをその目で共に見届けてみないか?」
「そうか!面白い!シグナム!兵を集めよ!我らはこれより聖帝十字陵へ向かう!シュウとサウザーの最期、そしてケンシロウの戦いぶりをこの目で確かめてやる!邪魔立てする者は皆殺しだ!」
「ハハア!」
ラオウ様はやる気が満々だった。それだけケンシロウの腕を信じているという事だろう。それを説得させたトキもすごい。この2人は正に最強の北斗の兄弟である事に間違いは無かった。
 こうして私とラオウ様、トキ、その他兵士群は馬に乗って聖帝十字陵に向かった。その途中、聖帝軍の大勢の兵士の群れが立ち塞がった。
「ここから先は一歩も行かせん!」
「おのれ!ウジ虫どもめが!捻り潰してくれるわ!」
ラオウ様は構えた。だが私は前に出て言った。
「ここは私達にお任せください。ラオウ様とトキは早く聖帝十字陵へ!私達もこやつらを倒したらすぐに向かいます!」
「頼んだぞ、シグナム!行くぞ、トキ!」
「ああ。シグナムとやら、ここは任せた。」
そう言ってラオウ様とトキは先に向かった。そして私と残った拳王軍の兵士達と聖帝軍の兵士達と戦おうとした時、そこに聖帝軍ではない大勢の男達が集まって来てそのリーダーらしき男が私に言ってきた。
「我々はシュウ様のレジスタンスの残存部隊。拳王軍といえど敵は我らと同じ聖帝軍。我らがリーダー・シュウ様のため、あなた方に加勢します!」
「そうか。それならありがたい。全員、私に続け!!」
「ウォォォ!!!」
こうして戦が始まった。共に次々と犠牲が出た。だが決して負けなかった。
「南斗烈火拳・龍炎舞!!」
私は次々と南斗烈火拳で兵士達を倒していった。その末、とうとう隊長一人が行き残り、命乞いをして来た。だが私は許さなかった。
「拳王様にたてつく者は何人たりとも許さん!」
そう言って剣を突き刺し、その隊長にとどめをさした。
「さあ、我らも行くぞ!聖帝十字陵へ!!」
「オ〜ウ!!」
私は兵士と残存部隊を率いてラオウ様達の後を追った。

10.愛

 私達が辿り着いた時にはシュウ様が聖帝十字陵の頂上で聖碑を持ち上げたまま兵士の放った矢に刺され、さらにサウザー様の放った槍が腹に突き刺さった状態となっていた。その瞬間、不思議な事にシュウ様の失われていた両目に光が戻った。虫の音のシュウ様はすぐさま駆けつけたケンシロウに囁いた。
「ケンシロウ、時代を生き抜け。私達親子は南斗の星となっていつまでもお前を見守っている。シバ、ララァ…。待っていろ…私もすぐにお前達の下へ逝く。あの世で平和に暮らそう・・・。後は・・・頼んだぞ…。サウザーを…倒…せ・・・」
「シュウ〜!!」
そうしてシュウ様はケンシロウの目の前で聖碑の下敷きとなり、力尽きた。
「サウザー!貴様の髪の毛一本もこの世に残さん!!」
「その言葉が貴様の最後の遺言となる!今こそ北斗が滅び我が南斗の将星がこの世を支配する時!この場で俺の名誉を称えて死ぬが良い!」
怒りに燃えるケンシロウがサウザー様に宣戦布告し、サウザー様も自らそれを受け入れ一騎打ちを始めようと自信満々で十字陵の階段を上った。
「聖帝様の手を汚すまでも無い。死ね!北斗の男!」
ケンシロウに弓を射ろうとした兵士がいた。
「この闘いの邪魔をする奴は許さん!」
私はすぐ様、その兵士を刺殺した。
サウザー様は聖帝十字陵に祭られている一人の男の亡骸を自身の身の上話と共に披露した。その男は南斗鳳凰拳先代伝承者にしてサウザー様の育ての師父・オウガイ様だった。実はこの聖帝十字陵はそのオウガイ様のためのものでもあったのだ。そしてサウザー様はケンシロウの前で言った。
「愛故に人は苦しみ、悲しむ。愛など所詮この世のまがいものに過ぎんのだ!」
「それでも人は愛を信じる。俺はそんな愛のために戦おう!」
 そうしてケンシロウとサウザー様の決闘が始まった。先に一撃を放ったのはケンシロウだった。その技はシュウ様の南斗白鷺拳だった。
「これはお前に殺されたシュウの痛み。そんなシュウの拳をせめて一傷、お前に浴びせたかった。だが、お前を倒すはあくまで我が乱世の拳・北斗神拳!!その誇りにかけて、そして愛のために今ここでお前を倒す!!」
ケンシロウはそう言って構えた。するとサウザー様も攻撃を次々と放った。防御するケンシロウ。そんな闘いの中、ケンシロウはついにサウザー様の身体の謎を解いた。それと同時にケンシロウの闘志がさらに燃え上がった。
「お前の鼓動と血の流れが俺に謎を解かせた!!心臓の位置が逆。全ての秘孔の位置も表裏逆。それがお前の謎!知ってしまえば他愛の無い事!」
「フフフ…そうか!だがそれを知った以上、ただでは済まさん!」
するとサウザー様も闘志を燃やし聖帝十字陵の聖碑の頂上に立つと目の前で初めて構えを見せた。すると彼の身体が鳳凰の如き眩い輝きを見せた。私も過去に彼の戦いぶりを何度か見てきた。しかし、いつも相手を軽くあしらうようなかなり余裕のある戦いぶりしか見せなかった。よって彼があそこまで本気を見せるのはこれが初めてだった。
「南斗鳳凰拳奥義・天翔十字鳳!!帝王の拳・南斗鳳凰拳に構えは無い!敵は全て下郎!だが、対等の敵が現れた時、虚を捨て立ち向かわねばならない!帝王の誇りをかけた不敗の拳で!」
「ならばこちらもその礼に応えてやろう!北斗神拳秘奥義・天破の構え!!」
「そう来るか!では行くぞケンシロウ!天空に極星は2つもいらぬ!!死ね!!」
こうして互いの秘奥義を出し合ったケンシロウとサウザー様の本気の一騎打ちが始まった。一子相伝の2つの最強の拳のぶつかり合いだ。サウザー様の攻撃が次々とケンシロウを圧倒した。その勢いに乗りサウザー様が言った。
「北斗神拳の長い歴史も、貴様の信じるこの世の愛も全てここで終わる!天に輝く極星は南十字星。この聖帝サウザーの将星なのだ!とどめだ!ケンシロウ!!」
「そうはさせん!北斗神拳奥義!天破活殺!!」
ケンシロウの放った闘気がサウザー様の胴体の秘孔を背中から北斗七星の形に後ろの岩まで鮮やかに貫いた。
「天破活殺の極意は触れずして秘孔を突く事にある。将星堕ちるべし!!」
「ぐあぁぁ!!」
それによってサウザー様は秘孔が露となり、自由な身動きが取れなくなった。そんなサウザー様にラオウ様が叫んだ。
「おごるなサウザー!貴様ももはやこれまで!」
「俺は聖帝!南斗の帝王!退かぬ!媚びぬ!省みぬ!!逃走などない!!」
それでも帝王のプライド故に最後まで抵抗を試みるサウザー様は出せる限りの力を振り絞りケンシロウに襲い掛かった。するとケンシロウの奥義がサウザー様に炸裂した。その技を見て隣にいたトキが呟いた。
「あれは北斗有情猛翔破。」
「トキ、あなたの技ですね。」
私はそう答えた。痛みを知らずに相手を安らかに死なせる有情拳。慈悲深いトキがこの技をよく使う事は私も知っていた。しかしケンシロウはこれまで非道の限りを尽くしシュウ様の命までも奪ったサウザー様に何故この技を?息を切らしかけながらサウザー様はケンシロウに問うた。
「最期に一つだけ聞こう。貴様は何故それほどまでに愛を信じる?苦しみや悲しみしか生まない愛を…」
「愛が生むのは苦しみや悲しみだけではない。お前も知っているはずだ。思い出せ。優しさや温もりを。」
「優しさ…温もり・・・」
(師父(とう)さ〜ん!ハハハ!)
(サウザー!強く元気に育つんだぞ!)
(ウン!師父さん、大好き!)
(私もお前が大好きだ!)
「と、師父さん・・・」
「そうだ。それらも愛が生む掛け替えの無いもの。それを信じるから人は強く生きられる。お前にもそれを教えてくれた大切な人がそこにいるだろう。本当の愛を思い出しながらその人の下へ逝け。」
ケンシロウがサウザー様にそう言うとオウガイ様の亡骸の前に近づいて大粒の涙を流しながら呟いた。
「と、師父さん…。もう一度…温もりを…あの頃の優しさや温もりを…」
その時のサウザー様はまるで子供の頃に戻ったかのような正に愛情に溢れた明るい表情だった。私はあのような彼をこれまで一度も見た事が無かった。修行の末に最愛の師父を殺してしまった苦しみと悲しみに耐えられぬ故、愛や情を全て捨て非情の仮面を被り今日まで生きてきたサウザー様。その失くしていた温もりや愛を思い出しながら愛する師父の前で静かに息を引き取った。
「サウザー様・・・。」
私もそんなサウザー様の死に様を見て思わず涙が零れ落ちた。
「サウザー、奴も哀しい男よ。誰よりも愛深き故に…」
ラオウ様が呟いた。私も愛の深さを大いに実感した。サウザー様の忘れ去っていた愛を再び思い出させるためにケンシロウは痛みを生まぬ有情拳を使ったのだ。そこまで見抜くとは彼もやはり只者ではない。
こうして聖帝軍は滅んだ。武器を捨て降参する兵士達。人質だった子供達や人々は解放され、子供達はそれぞれの親の下へ無事に帰って行き、皆、恩人であるケンシロウを称えた。ラオウ様がその様子を見ながらトキに言った。
「ケンシロウ、正に救世主よの。これで俺の邪魔となる存在はまた一つ消えた。我が覇業への道がまた一歩近づいたというもの。今回ばかりはケンシロウと貴様には感謝するとしよう。だが、貴様達の首はいずれ必ずとる!」
するとトキは厳しい表情で答えた。
「ラオウ。いい加減、目を覚ませ!人が求めている者は恐怖ではない。光だ!」
「光だと?笑わせるな!そんなもの、この拳でぶち壊してやるわ!」
「ならば私も全力を持ってその野望を喰い止めて見せよう。」
「望むところだ。いつでも来るが良い。ではシグナム、城へ戻るぞ!」
そう言ってラオウ様はその場を去ろうとした。
「ハッ!最後にトキ、あなたとは1対1で一度、話がしたい。近い内にあなたの住む村までこちらから直接行かせていただく。よろしいですか?」
その場を去る直前、私はトキにそう言った。すると彼はこう答えた。
「ああ、構わんよ。いつでも来たまえ。場所はわかるな?」
「ええ。我が拳王軍の情報網で既に調査済みです。それではいずれ。」
「では私の方からも最後に一つだけ聞こう。君もラオウの恐怖の覇業に一生ついて行くつもりなのか?」
「当然。私は既にラオウ様に全てを捧げる事を誓った身。ラオウ様の邪魔となる者は皆殺しにするまで。」
どこまでも正統派なトキに私はそう返事を返した。するとトキは言った。
「やはりそうか。今の君の目はラオウに従順だ。仕方あるまい。では村で待ってるぞ。」
「わかりました。それでは。」
そう言って私とラオウ様はその場を去った。しかしこれでとうとう南斗六聖拳の6人のうち、5人までもがこの世を去ってしまった…

 [二次創作] 北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 後編に続く

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