修羅の国二次創作世紀末覇王北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 後編

[二次創作] 北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 後編

 作:世紀末覇王

 [二次創作] 北斗の拳外伝 〜シグナム 烈火の章〜 前編の続き


 11.トキの村
 12.ユリアの墓
 13.さらばトキ
 14.不安
 15.死兆星
 16.一騎打ち
 17.慈悲
 18.再会
 19.南斗5つの誓い
 20.LONELY STARS
 21.エピローグ〜天へ〜

11.トキの村

 それからのある日、私はラオウ様の下を一旦離れとある村へとやってきた。そこはトキが治める村であった。住人は主に身寄りの無い子供やお年寄り、怪我人や病人で構成され、トキやその関係者達がまとめて面倒を見ている。悪党からの守りも堅く、水や食糧も豊富で正に平和な村だった。私は先日、トキにも直接言った通り彼にどうしても聞きたいことがあり、ここに赴いた。
 しかし実に平和な村だ。まるで核戦争前を思い出す。私も幼い頃はこんな場所で暮らしていたような気もする。しかし今の戦いに明け暮れる生活を続けているせいでそんな頃の事はすっかり忘れてしまった。子供達が無邪気に遊んでいる。本当にのどかな光景だ。ん?あれは…!
「姉ちゃん!シグナム姉ちゃんやんか!」
2人の少女が私に気付き、近寄って来た。その少女達は何と私の2人の妹・ハヤテとヴィータだった。実に3年ぶりの再会だった。
「ハヤテ、ヴィータ。どうしてここに?」
「姉ちゃんこそどうして?」
「え?それは…」
突然の意外な再会に思わず私は言葉を詰まらせた。何せ核戦争のしばらく後、2人をとある村の施設に預けたきり、お互い音沙汰無しだったから。するとそこに2人の若い女性がやって来てその内、1人が説明してくれた。
「この子達は前に住んでいた村が野盗に襲われた際、トキ様が助けてくださったんです。それ以来、この村で暮らすようになって私達が面倒を見ています。」
「そうだったのか。しかしハヤテは足が不自由だったはず。なのに何故?」
今、ここにいるハヤテは元気に二足歩行出来るようになってとても元気な様子だった。ハヤテが自らその問いに答えた。
「トキさんが秘孔で治してくれたんよ!おかげであたしはこの通り元気や!」
「そうか。トキが・・・」
嬉しそうな返事だった。女性の1人が答えた。
「あなたがハヤテちゃんとヴィータちゃんのお姉さんですね。2人からよく聞かされてました。お話通りの立派なお姉さんで。お名前は?」
「シグナムだ。お前達は?」
「私はシャマル。こちらは妹の…」

「サキです。私達はこの村でトキ様のお手伝いをしています。」
「そうか。それよりトキはどこだ?私はトキに会うためにここに来た。」
「そうですか。わかりました。ご案内いたします。」
私はシャマルとサキについて行き、トキのいる病院へと向かった。中に入るとシャマルが部屋の机の前に座っているトキに言った。
「トキ様、お客様です。」
するとトキが私の顔を見て言った。
「君か。ついに来たか。気配でわかったよ。」
前から私がここに来る事を知っていたトキに対してサキが言った。
「この方をご存知なのですか?」
「あぁ。先日、ラオウと一緒にいた。」
「ラオウ…。あの拳王様と?」
「ではこの方は拳王軍の…!」
そう言うと2人は少し驚き恐れるような様子で私の顔を見た。無理も無い。誰もが恐れる拳王様の部下なのだから。しかしトキがそんな2人に言った。
「別に何も驚く事も怖がる事も無い。彼女は私と話をするだけ戦うつもりで来たのでは無い。ここに来る事は前に彼女自身の口から聞かされていた。君達はもう戻って村人や子供達の面倒を見ていてくれ。」
「そうだったのですか。それなら安心です。それでは。」
そう言ってシャマルとサキはその場を離れた。部屋にいるのはトキと私だけになるとそして私は早速本題をトキに吹きかけた。
「先日はありがとうございました、トキ。」
「こちらこそ。確か君の名は…」
「シグナムです。ラオウ様直属の副官を務めております。今回はどうしてもあなたにお聞きしたい事があってここに来ました。」
「聞きたい事?何かね?」
「あなたは何故、ラオウ様やケンシロウ、そしてこの私ですら知らなかったサウザー様の身体の謎を知っていたのですか?それを教えて下さい。」
するとトキは素直に私の質問に答えてくれた。
「わかった。教えよう。君も知っての通りサウザーの南斗鳳凰拳は南斗108派の中で最強。そして北斗神拳同様、一子相伝の拳として代々受け継がれてきた。サウザーと同じ心臓の位置が通常の人間の逆。全ての秘孔も表裏逆の位置にある特殊な身体を持つこの世でただ1人の男児に。」
「しかしサウザー様は先代伝承者のオウガイ様に偶然拾われた捨て子。2人の間に直接的な血の繋がりは無かったはず。」
「確かにそう思うだろう。だがそれは単なる偶然ではなかった。実はサウザーはオウガイより一つ前の伝承者の遺児だったのだ。」
「遺児?サウザー様がオウガイ様より前の伝承者の?」
私はその事実に驚いた。そしてさらにトキはこう答えた。
「ウム。オウガイの前の伝承者は病に冒されていたために鳳凰拳の伝承者を断念せざるを得なかった。そこで彼は自身の一番弟子であったオウガイに伝承者の座を譲った。それから数年後、死んだ先代伝承者の子息である赤ん坊がわざとオウガイの前に捨てられ、彼に拾わせ、次期伝承者として育てさせた。その赤ん坊こそサウザーだったのだ。」
「なるほど。それなら納得します。しかしサウザー様本人はその真実を全く知らなかった様子でした。これは何故?」
「おそらくサウザーの実の父である先代伝承者がオウガイに一切真実を教えないよう頼んでおいたのだろう。真実を知るとなればサウザーはオウガイの言う事を無視して立派な後継者になりかねない。それにオウガイは伝承者には似合わないほどの愛と優しさを持っていた。それを我が子に曇る事無く伝えたいという意思でもあったのだろう。」
「サウザー様は非情となった後でも心の奥底にオウガイ様との思い出を秘めていた。オウガイ様への深い愛を決して忘れたわけではなかった。そのために表向きには己の覇権の誇示である聖帝十字陵をオウガイ様の墓に・・・」
「そして最終試練でオウガイが自らサウザーに殺されたのは後継者が育った上での掟でもあり、自決でもあった。真実を完全に抹消するための。」
「そうする事でオウガイ様が血筋を持たない本当の伝承者でない事がわからぬまま、正しい血筋を持つサウザー様に後継される。」
「しかし先代伝承者もオウガイもサウザーに愛を知ったまま拳を受け継がせて行って欲しかったというのが本音だっただろう。師父の死後も強く優しく生きていって欲しいと。だがその愛がかえって哀しみへと変わり、サウザーを非情の男へと変えてしまった。これには救いようがあるまい。悲しいものだ・・・」
「ラオウ様も言っておられました。誰よりも愛深き故に哀しい男だと・・・。しかしそんな事を何故ご存知で?」
「医学の知識を学ぶために様々な資料を調べていた際、偶然南斗鳳凰拳の伝承者の特異体質を記した文献を見つけたのだ。最初はそれに書かれていた事を疑ったが、過去に南斗の道場でラオウがサウザーと手合わせしたのを何度か見た時、秘孔を突かれたはずなのに平然としている様子からそれに書かれていた事が本当である事に気付いた。それで真実を知ったのだ。」
「そうだったのですか。物知りですね。でもそれなら何故もっと早くラオウ様やケンシロウにその事を教えなかったのですか?」
「2人のためを思ってな。すぐに教えたとなればラオウはすぐにでもサウザーを倒し覇権の野望をさらにそして早く燃やす。それにケンシロウには正統伝承者としてもっと強くなってもらいたい。この事を教えればすぐにサウザーとの決着がつく。そんな事では真の強さは掴めない。痛みや苦しみを乗り越えてこそ真の救世主。そのために私はあえてサウザーの秘密を2人に教えなかった。」
「兄弟思いなのですね。さすがは北斗の次兄。」
「それほどでもない。しかし聞きたい事とはそれだけか?」
「では…妹達を助けていただきありがとうございました。」
「礼には及ばんよ。2人とも君に似て元気な女の子だ。特にハヤテちゃんはよく私の手伝いもしてくれる。実に良い妹を持ったものだ。しかし君は子供の頃から拳の修行で多忙なために2人をよく施設に預けていたそうだな。」
「何かと忙しくて妹の面倒どころじゃありませんでしたから。しかしいつも心配してました。あの核戦争の日、2人の事が特に心配で夜も眠れなかった。でも2人は無事だった。聞けば核シェルターに避難する際、あなたは他の避難民を守るために自らシェルターに入るのを諦め死の灰の盾になったと。そしてそのシェルターの中にはハヤテとヴィータもいた。」
「ああ、その通りだ。皆、無事で何よりだった。」
「しかしあなたはそのために死の病を患って…」
「心配するな。私は何も後悔はしていない。北斗神拳伝承者の道は閉ざされたが新たな生き甲斐を見つけた。だからこうして残り短い命を少しでも多くの病人や怪我人を救う事に費やすために日々を過ごしている。」
「私の知る者にも同じような事を言っていた人がいました。」
「シュウか。」
「ハイ。彼も過去にケンシロウを救うために自らの両目を失明させ、そして今また、子供達や民を守るためにその命を捨てた…」
「悲しいが彼もそれを望んでやった事だ。後悔はしていまい。」
「一片の悔いも残らぬ生涯。それを送れるのなら死んでも浮かばれるでしょう。私も信じる主のため戦いに生きる。一度、決めた道は決して変えない。それが南斗の掟であり、一人の南斗の戦士である私の生涯。悔いはありません。」
「そうか。君がその道を信じているのならそれも良かろう。」
「では私はそろそろ失礼します。」
私がその場を離れようとした時、トキが言った。
「その前に最後に一つ、私の方からのお願いを聞いてくれるか?」
「お願い?」
「私は病でいずれ近い内に死ぬ。いつかラオウのもとを離れる時が来たら私に代わってシャマル達と共にこの村の皆の面倒を見てやってくれないか?」
「お断りします。ラオウ様の下を離れる?馬鹿言わないで下さい。あのお方はこの世を統べるに相応しい存在。私はそんなラオウ様の下を離れるつもりは一切ありません。ラオウ様を愚弄するようならこの場で殺します。」
「そうか。そう答えると思ったよ。ラオウにも一応、既にこの村の事は教えてある。ここにはか弱い人間や子供達しかいない。制圧しても何の価値もないから手出しはしないと頼んだ通り受け入れてくれている。だから君が私をこの場で殺す必要も無い。」
「それはそうですね。それにあなたを倒すのはこの世でただ1人。あなたの兄上・ラオウ様のみ。私はあなたとラオウ様の闘いに手出しするつもりはありません。では私からもせめて最後に言わせて下さい。妹達を2度も救っていただきありがとうございました。これからもあの2人をよろしく頼みます。」
「ああ、わかった。元気でな。ラオウにもよろしく伝えておいてくれ。」
そう言われ、私はトキのもとを離れた。彼の言葉、曇りの無い目の輝きは間違いなかった。さすが北斗の長い歴史の中で最も華麗な拳と実力を持つ男。そして、ラオウ様の実の弟だけある。
 トキの病院を出た私は木に繋いでいた愛馬のもとに行き、拳王城に帰ろうとした。すると、シャマルとサキがハヤテら子供達の下を離れて車に乗ってどこかに出掛けようとしていた。車には水や花束が積んである。そんな2人が何となく気になって私は声を掛けた。
「どこかに出かけるのか?」
シャマルが答えた。
「ええ、ちょっとお墓参りへ。」
「墓参り?誰のだ?」
その問いにサキが答えた。
「私達の大切なあるお方のお墓です。」
「大切なお方?」
するとシャマルが言った。
「よろしければシグナムさんもご一緒にいかがですか?」
「そうだな…。ではお言葉に甘えてご同行させてもらおう。」
私はその誘いに何故か何やら懐かしい気が沸いてついて行く事にした。

12.ユリアの墓

 サキとシャマルに誘われ、共にやって来た場所は何とかつてシン様が築き栄えていた都・サザンクロスだった。しかし崩壊し、持ち主が死んだ今ではすっかり錆びれ果てた死の都と化していた。そんな中、シン様の居城の前に2つの墓がポツンと建っているのを見つけた。あれが2人が言っていた墓のようだ。近づいてその墓に刻まれている名前を見た。するとその名前はシン様、そしてユリアさんだった。この墓はその2人のものだったのだ。
「これは…」
シャマルが答えた。
「見ての通り、シン様とユリア様の墓でございます。」
「ああ…。何故お前達がこの墓を?」
すると2人はさらに驚くべき事実を話した。
「私達姉妹は先祖代々、南斗に仕える者。私は南斗六聖拳の1人に仕える者として以前からシン様の侍女を務めておりました。」
「私はサザンクロスにおけるユリア様の侍女として雇われておりました。良く出来た妹で侍女には相応しいとシャマルお姉様がシン様に紹介してくれたんです。それにユリア様とは以前、同じ施設で働いていた事もありましたから。」
「そうだったのか。どうりでサキは以前にどこかで会った事があるような気がしてたわけだ。お前の働いてた施設では私の妹達もお世話してもらって私も送り迎いに行ってたからな。ではお前達も南斗の女か。」
「その通りでございます。」
「あなたが南斗烈火拳のシグナムさんだと言う事も最初から気付いておりました。あなたはレイ様、ユダ様と主を変え、現在は拳王様に仕えて拳王様のためにその強さを振るっておられるそうで。」
「ああ、そうだ。拳王様…ラオウ様こそ今の私にとって最大の主。彼のために戦い続けている。それよりお前達はここでそれからどうしていたのだ?」
「シン様はユリア様から歓心を買い、完全に我が物にするただそれだけのために破壊と殺戮という力ずくのみで地位や権力を手中に収められて来ました。」
「でもユリア様の中にはいつもケンシロウ様がいた。それ故にどんなに豪華な宝石やご馳走、ドレス…そしてこのサザンクロスの街であれど何をもらえようとも決してシン様に心を開かなかった。」
「私達はユリア様の最愛の方と無理矢理引き離された悲しみを同じ女としていつも痛い程、感じておりました。せめてもと思い、ユリア様を励ます事に日々力を尽くしておりました。」
「ところがある日、私達は突然、シン様から解雇を命じられ、輸送車に乗せられ何処へと連れて行かれたのです。」
「一度は荒野にでも捨てられるのではないかととても不安になっていました。ところが辿り着いた先は私達の故郷の村だったのです。」
「お前達の故郷だと?」
「ハイ。私達は晴れて自由の身となったのです。そして村に帰った直後にサザンクロスの崩壊を知らされました。」
「そこでわかったのです。シン様は前から組織の反乱を察知しておられた。その反乱に私達を巻き込ませないために私達を特別に強制送還したのだと。」
私はそれを聞いてシン様の人柄の良さを感じた。
「そうだったのか。シン様は愛に生きる殉星を持つお方。狂気に走っても女性に対する愛は人一倍大きい。そのためにお前達も助けられたのだろう。」
「ハイ。シン様にはその事に大いに感謝しております。そしてその数日後、ユリア様とシン様の死を知った私達は一度、サザンクロスに戻りました。でもそこはかつての輝きは完全に消え失せ、死の都と化し、ただ一つシン様を埋葬したと思われる跡があっただけでした。」
「それを見てせめてもと思い、知り合いの方に頼んでお2人のお墓をそこの居城の前に建ててもらいました。」
「それがこの墓だというのか…」
「ハイ。それからというもの私達は様々な町や村を回って身寄りの無い子供や病に苦しむ人々の援助をしておりました。」
「そんな中、赴いていた村が野盗に襲われ、殺されそうになったところを偶然訪れたトキ様に助けられました。トキ様も私達と同様、子供達や難民を救う事に大変懸命なお方でした。そこで話をしたら自分の村にそこに残った子供や住民を引き取ってくださいました。それ以来、私達はそのトキ様の村でトキ様のお手伝いをしております。」
「ハヤテちゃんとヴィータちゃんもその時、引き取り、それ以降共に仲良く暮らしております。」
「そうだったのか…。トキがお前達やハヤテ達を…」
「トキ様の村に住むようになってからもこのお墓にはよくお参りに来てるんです。何故なら私達が最も尊敬している方達のお墓ですから。」
私はその話を聞いて深く感心した。
「尊敬か。確かにユリアさんは私にとっても尊敬する存在だった。核戦争前に彼女が働いてた施設に妹達を預けていてその際何度か会っていた。本当に立派な女性だった。そんな彼女の死を知った時は本当に悲しかった。シン様も修行時代に私と何度か手合わせしてくれた。あの頃の彼は良い人だった。しかしこうしてそんな2人の墓を拝む事が出来て良かった。ありがとう、シャマル、サキ。ここに来れたのも何かの縁だ。私からも献花させてくれ。」
「ええ、どうぞ。そう言って下さるとこちらも嬉しい限りです。」
「あなたを誘って正解でした。きっと天国のお二方もお喜びになられるでしょう。さあ、一緒に手を合わせましょう。」
そうして私達3人はその墓の前で献花し、静かに合掌した。すると後ろから一人の男が声を掛けてきた。
「おや?先客かい?」
「誰だ!?」
私はすかさず後ろを振り向き剣を構えた。するとその男が行った。
「おっと、怖い怖い。別にあんた達を襲うつもりで来たんじゃねえよ。俺もただその女の墓にお参りに来ただけだ。」
一見、陽気なその男を見て私はその正体に気付いた。
「お前はジュウザ!」
すると男は答えた。
「お!ご名答。よくわかったな。よく見たらシグナムじゃねえか。昔よく遊びに行ってた南斗の道場にいた女だろ?覚えてるよ。随分立派になったな。そう。俺は南斗五車星・雲のジュウザ。覚えててくれて嬉しいぜ。」
その男の言う通り、彼は私がかつて修行に通っていた南斗の道場に幾度と無く現れ、他の門下生に手合わせだと言って軽くあしらっていた。それ以来に顔を合わせた。その名を聞いてシャマルが言った。
「南斗五車星?確かそれは南斗正統血統に仕える直属の戦士の1人。そんな人がどうしてここに?正統血統の傍におられなくて良いのですか?」
「五車星と言っても俺は南斗正統血統なんぞに仕える気なんてサラサラねえよ。俺は雲のように自由気ままに生きるだけの男だ。」
確かに昔からこの男に南斗正統血統への忠誠心など全く感じられなかった。
「それはそうと何故ここに?」
「なあに、ちょっと来たかっただけだよ。それより美女が3人も揃って墓参りとはね。特にその黄色い短い髪の娘、可愛いじゃん。どうだ?今から俺の城に来ないか?水も食糧もありったけあるし何不自由なく暮らせるぜ。遊ぼうや。」
ジュウザは私達、特にシャマルにナンパを仕掛けてきて困った。するとさらにもう一人の男が声を掛けてきた。
「お前達!ここで一体何をしている!?」
その声に反応して振り向くとそこに白馬に乗った一人の男がいた。その男を見てジュウザが話した。
「おや?リュウガじゃねえか。どうしたんだ?こんなところで。」
その名前を聞いて私も思い出した。その男は天狼星を持つ泰山天狼拳のリュウガだった。この男も私と同様、ラオウ様に忠誠を誓っていた。そのためこの男の噂はいろいろと聞いていた。リュウガがジュウザに言った。
「ジュウザ!お前こそ何故ここに!?」
「そんな怖い顔すんなよ。妹の墓の前で。」
「妹?」
シャマルが聞いた。ジュウザが答えた。
「ああ、この墓に眠ってるユリアは俺とリュウガの妹だった。俺の場合、母親違いだけどな。」
それを聞いて私も驚いた。この2人の男がユリアさんの兄だと言うのか。
「本当なのですか?」
サキがリュウガに聞いた。するとリュウガは答えた。
「ジュウザの言う通りだ。俺達は母親違いの兄弟。俺も妹の墓がここにある事を噂に聞いてこうしてやって来た。」
するとリュウガにジュウザが皮肉るように言った。
「強くなりたいからって何年も前に家を飛び出して南斗聖拳じゃなく泰山天狼拳を身につけたお前が今更、ユリアに会いに来たってのか?笑わせるね。」
「うるさい!俺はユリアのためを思って南斗を捨てて天狼星の男になった。そして陰ながらユリアを守る。そのために俺はこの道を選んだ。ジュウザ、お前こそユリアがケンシロウのものになってからというものいろんな町や村から若い女を集めては女遊びの日々ばかり過ごしてるそうじゃないか。南斗五車星の1人ともあろう者が聞いてあきれるな。」
「何だと!俺はなあ!こんな酷い世の中で厄介な争い事に巻き込まれたくないから何か楽しみを見つけ出そうと女遊びを楽しんでるだけだ!お前みたいにむやみやたらに戦ってばかりの奴と一緒にするな!」
「何だと!」
2人は口論を始めようとした。シャマルが止めた。
「お2人とも止めてください!ユリア様が…大事な妹さんが悲しみます!」
すると2人は治まった。
「そうだな。悪い悪い。せっかくこうやって墓参りに来たってのに雰囲気を邪魔しちゃあ、あの世にいるあいつにも申し訳ないからな…。」
「まあな。こんなんじゃあいつも浮かばれまい。」
「しかし俺達ゃとんだシスコンだな。」
「そうかもな。お互いユリアのために生きる道を変えたんだから。」
そう言って2人はユリアさんの墓に花を添えた。2人の会話を聞いて私も妹を持つ立場だけあり、その気持ちがよくわかる気がした。妹思いなのは同じだ。
墓参りを終えるとジュウザはその場を去ろうとした。
「じゃあ、俺はもう帰るわ。家で可愛いレディーや舎弟達が俺の帰りを待ってるからな。あんたも良かったらいつでも来なよ。地図を渡しとくからさ。」
「ハ、ハァ…。ありがとうございます。でも村のみんなの世話で忙しいからそんな行けないと思います。ごめんなさい…。」
「そうか?まあ暇があればいつでも来な。そういやあんたの名前聞いてなかったな。改めて俺の名はジュウザ。あんたの名は?」
「シャ、シャマルです。こちらは妹のサキです。」
「シャマルにサキか!覚えておくぜ!あばよ!」
そう言ってジュウザはシャマルに自分の城の地図を渡し、その場を去った。シャマルは戸惑った様子だった。そしてリュウガもその場を去ろうとした。
「では俺も用は済んだので城へ戻る。シグナム、お前の事は拳王様から色々と聞いている。良い功績を挙げて拳王様から大変認められているそうだが良い気になるな。この世を統べるのは拳王様とこのリュウガだ。お前はあくまで拳王様のただの部下に過ぎん。それを肝に銘じておくのだな。ではさらばだ!」
そのきつい言葉を聞いて私は彼の冷血さを感じた。彼も私と同様、己に相応しい主を求めている者。それがユリアさんの兄であろうと一切変わらなかった。意外な来客に驚くしかない私達だった。
「意外な連中と会えたな。それがユリアさんの兄上達とは。」
私が呟くとサキが言った
「そうですね。驚きました。ユリア様にお兄様がおられたなんて。」
サキが言うとシャマルも言った。
「きっと天国のユリア様が彼らと私達をここに導いてくれたのでしょう。こうして出会えたのもまた何かの縁ですよね。では私達も帰りましょうか。」
そうして私達もその場を去った。トキの村に戻るとまた子供達が迎えてくれた。シャマルとサキは良い母親代わりのようだ。それからすぐに私が村を離れようとするとハヤテとヴィータが私に寄って言って来た。
「姉ちゃん、また拳王さんのとこに行くん?」
「ああ、もう戻らねば。いつまでもこうしているわけにはいかんからな。」
「行くなよ!姉ちゃんも一緒にここで暮らそうよ!」
2人は私に抱き付きながら必死にそう言った。唯一の肉親である私への思いやり故の言動である事は痛いほど感じた。だがそれには応えられなかった。
「すまんがそれは出来ない。今の私は拳王様に仕える身。拳王様がこの乱世の覇業を果たすまで私はあの方のために戦い続けなければならないのだ。」
「そんな…拳王さんなんてどうでもええ!姉ちゃんは姉ちゃんや!」
「ハヤテ姉ちゃんの言うとおりだよ!いい加減戦いなんてやめろよ!」
でも私は妹の思いに応える事は出来なかった。でもせめてこう言った。
「安心しろ。拳王様の野望が叶ったら私もまたここに来る。それまでシャマルやサキ、トキやの言う事をよく聞いて良い子でいるんだぞ。」
「姉ちゃんの馬鹿!あたしらより拳王の方がそんなに大事なのかよ!」
怒るヴィータをハヤテが止めた。
「やめ、ヴィータ。姉ちゃんはそれなりに頑張ってあたしらを陰ながらでも大切に思ってくれてるんよ。気持ちはわかるけど今は素直に見送ろ。」
「でも…」
「姉ちゃんの言う事聞き。良え子やろ?」
「わ、わかった…。じゃあな、姉ちゃん。死ぬなよ!」
ハヤテの説得でとても残念そうな顔でヴィータはそう言った。
「ああ、ありがとう。私は絶対に死なない。拳王様と共にこの世を治める!」
2人には本当に申し訳なかった。最後に私はシャマルとサキにこう言った。
「シャマル、サキ。世話になった。子供や村人達を…そして妹達をこれからもよろしく頼む。トキにも礼を言っておいてくれ。」
「ハイ、この村での事はご安心ください。」
「シグナムさんこそお元気で。」
「ああ、すまない。ではさらばだ。」
そうして私はトキの村を出た。

13.さらばトキ

「シャマル、サキ。この村の事は頼んだぞ。」
「ハイ。後の事は私達にお任せ下さい。」
「トキ様もお気をつけて。絶対死なないで帰って来て下さいね!」
「ありがとう。では行って来る。さあ、行こうか。ケンシロウ、リン、バット。」
「ああ。これがトキの最後の闘いになるかも知れないのだからな。」
 その後のある日、私はラオウ様と共にとある場所へとやって来た。そこは以前にも一度来た。ラオウ様の育てのご両親の墓のある場所だった。そこには既にトキが待っていた。彼と一緒にケンシロウとバット、リンもいた。
「待っていたぞ。ラオウ。いや、兄さん!」
「先に来ておったか。我が弟よ!」
2人はここで決着をつけるために来た。ラオウ様は子供の頃、共に修行するトキにこう言ったらしい。
「いつか俺が道を誤った時はお前の手で俺を止めてくれ」
と。その約束を果たす時がついに来たのだ。私は前にラオウ様とここに来た際、その事を知った。ラオウ様はトキとの一騎打ちに向かう際、私だけを誘った。
「シグナムよ。俺はこれより我が弟・トキとの決着をつけに行く。お前も来るが良い。俺とトキの闘い、その目に焼き付けるが良い。」
「喜んでお供させていただきます。」
その誘い通り、私は彼にお供してこうしてやって来た。
向かい側ではケンシロウ達3人がトキを見守っている。こちらでは私1人がラオウ様を見守り、応援していた。
「ラオウ。あなたは師父リュウケンの想像を遥かに超え、強くなり過ぎてしまった。そしてその野望までも!!」
「時代は変わったのだ!俺はこの拳でこの世の全てを握る!!そのためにまず貴様をこの場で倒す!!」
「良かろう。誓いの時は来た!私は今こそあなたを超える!!」
「そう来なければな。この兄を超え、拳王の野望を砕いてみるが良い!!」
そう言い合って2人の実の兄弟同士の一騎打ちが始まった。
「闘頸呼法!天翔百裂拳!!」
トキの繰り出す技は正に華麗だった。柔の拳とも呼ばれる彼の拳は見るもの全てを虜にする。かつてレイ様がそうであったのと同じだった。修行時代から私も感じていたトキの変わらぬ華麗さや強さ、実力。それらは身体は病に侵されていようとも決して衰えてはいなかった。
「剛掌百裂拳!!無想陰殺!!」
ラオウ様も負けてはいなかった。トキの柔の拳に対して彼は剛の拳。正に力で敵を圧倒する豪快な拳だった。修行時代から現在に掛けるまで幾度と無く彼の戦いぶりを見てきた私にとって改めて彼の強さを実感させられた。それが実の弟であろうと一切手加減しない事にも。
 ラオウ様がトキを追い詰めた。その瞬間、トキの身体に変化が走った。何と彼もラオウ様と同じ剛の拳を放ったのだ。
「北斗砕覇拳!!」
「グッ!貴様、剛の拳を…!!」
「天を見よ!あなたにも見えるはずだ!あの死兆星が!!」
トキはラオウ様に対し、夜空を指差し堂々と言い放った。死兆星。それは北斗七星の脇に輝く蒼星。その星が見える者にはその年の内に死が訪れると言う。レイ様もその星が見えていたため、死んだ。そしてその星が今、ラオウ様の上空にも輝いているというのだ。だが、ラオウ様はその言葉を受け入れなかった。
「見えぬ!見えぬわ!!死ぬのは貴様だ!」
そう言い切りながらラオウ様はトキに立ち向かい、激しい一騎打ちがまだまだ続いた。私と向かい側のケンシロウ達はただそれを見守り続けた。
 そんな中、トキの身体に限界が近づこうとしていた。その原因をラオウ様は見抜いた。トキは刹活孔という秘孔を自らの身体に突いていたのだ。刹活孔。それは剛拳を一瞬得られると同時に寿命を縮めてしまうという非情の秘孔だった。そこまでしてラオウ様との一騎打ちに臨んだトキ。そんな彼の姿を見たラオウ様の様子が変わった。
「効かぬ…!効かぬのだ!!」
何とラオウ様の両目には大粒の涙が流れていた。敵とは言えど肉親であるトキへの情けが思わず顔に溢れ出たのだ。涙を流しながらトキと闘うラオウ様。私はその姿に痛いほど心を打たれた。何故なら初めて見たからだ。彼の涙を。
「ラオウ様…そこまでトキを…」
その涙は私の両目からも思わず涙を流させた。もらい泣きだ。
「トキよ!これが俺がこの生涯で流す最後の涙となろう!死ね!」
そしてついにラオウ様がトキを完全に追い詰めとどめの一撃を放った。
「トキ〜!!」
リンはトキの名を叫び目を塞いだ。私も一瞬、目を伏せたくなった。だが、ラオウ様が一撃を放ったのはトキではなく彼の背中の地面だった。それによってそこに大きな穴が開いた。
「に、兄さん・・・」
トキが呟いた。ラオウ様は言った。
「このラオウを最も目指した男・トキはこれにて死んだ!今のお前はただの男。残る余生、安らかに暮らすが良い。」
「私も…最後にあなたと闘えて良かった…。これでもう思い残す事は無い。あとは静かにあの世の迎えが来るのを待とう。ありがとう、兄さん…。」
「礼などいらぬ!これでまた一つ目標が達成出来ただけだ。行くぞ!シグナム!!」
「ハ、ハッ!」
ラオウ様は黒王号に跨り、その場を去ろうとした。そして最後にケンシロウの方を振り向いてこう宣言した。
「ケンシロウよ!トキを倒した今、拳王・真の恐怖の伝説はこれより始まる!次に倒すは貴様の番だ!その時まで心して首を洗って待っているが良い!」
「ラオウ…。良かろう。トキの仇は俺が討つ!!」
 そうして私とラオウ様はその場を離れた。こうしてラオウ様とトキの決着はラオウ様の勝利に終わった。私は馬に乗りながらラオウ様を心配して尋ねた。
「お怪我の方は大丈夫ですか?」
「心配などいらん。すぐ癒える。」
「そうですか。しかし素晴らしい闘いぶり、しかとこの目に焼き付けました。」
「そうか。それより見られたくないところまで見せてしまったな。」
「いいえ。私はあなたの涙に大いに感動いたしました。あなたの涙は私の涙。肉親を思いやる気持ちは変わりません。」
「思いやり?フッ。俺もまだまだ不甲斐ないものだな。俺が泣いた事など他の奴らに教えるでないぞ。わかってるだろうな?」
「ご安心を。今回の件、全て内密にしておきます。」
「よろしい。しかしおかげで全ての涙は流し切った。これで思う事無く覇業が進められる。城に帰ったら俺は休む。その間、お前は全軍を指揮して制圧を進めろ。敵は一気に攻め落とせ!」
「ハハア!」
こうして私達は城へと戻った。
それからと言うもの、我が拳王軍の総進撃が始まった。これまで以上の戦と殺戮の日々。民の降伏。拳王様への恐怖はさらに広がり続けた。こうして因縁の相手・トキを倒したラオウ様は覇業への野望をさらに燃やし続けた。
「私にも最期の時が来たようだ。私も星となってお前を空から見守ろう。ラオウを倒せ。そしてこの世を救え。後は頼んだぞ、ケンシロウ。さらばだ…。」
そしてトキは自身の村で残りの余生を医師としての活動に捧げた後、ケンシロウに一騎打ちを挑んだ末、死んだリュウガの亡骸と共に天に召された。
妹を助けてくれたトキ。私とも話をしてくれたトキ、そしてラオウ様と素晴らしい闘いを見せてくれたトキ。本当にありがとう。そしてさようなら…

14.不安

 ある夜、私は拳王城内の風呂場で湯船につかっていた。周りは誰もいない。そこで一人、考え事をしていた。それは3日前の事だった。
 拳王軍が各地の制圧を進める中、ケンシロウが各地の軍隊を次々と滅ぼして刻一刻とラオウ様の下に近づきつつあった。しかしラオウ様は城の広間で落ち着いている。私は近々、彼の考えややり方に疑問を抱くようになった。
「ラオウ様、このままでは全ての軍がケンシロウにやられてしまいます。少しでも早くケンシロウを倒しましょう。」
ラオウ様はケンシロウが強くなった末、自らの手で倒す事を望んでいる。しかしそれを待っていては軍隊が減るばかりとなってしまう。そこで私は先にケンシロウを倒すよう勧めた。
「馬鹿者!!ケンシロウを倒す事などまだ先で良い!」
ラオウ様は私の言う事を聞き入れてはくれなかった。しかし私は粘った。
「しかしこのままでは無駄に軍が減る一方です。多くの軍を率いてこその我が拳王軍。ケンシロウを倒しても軍が無ければ覇業は…」
「構わぬ!軍などいくらでも代わりを集めれば良い!弱者の命など知った事か!」
「でもしかし…」
するとラオウ様は怒って私の顔を引っ叩いた。
「黙れ!お前は素直に俺の言う事だけを聞いていれば良いのだ!俺は女を殺す事に興味は無い。だが逆らうとなれば話は別だ。わかったか!」
「・・・わかりました。申し訳ございません。」
私はただ、ラオウ様に詫びるしかなかった。しかし納得がいかなかった。
「わかれば良い。」
そう言ってラオウ様はその部屋を出た。私はとても悔しかった。ラオウ様のためを思って放った意見だと言うのに…
「おやおや、シグナム殿。拳王様から珍しくお怒りを買われたか。」
そう言って現れたのはラオウ様の執事・ウサだった。確かに私がラオウ様に怒られたのは彼に仕えてから初めての事だった。さらにウサが皮肉る様に言った。
「拳王様に拾って頂いた上あれだけ認めて頂きながらあのような口を利くとはかなり不届きなものですな。本来ならすぐさま打ち首ですぞ。それなのにまだ生かしておかれるとは拳王様から随分特別扱いされてますな、あなたは。」
嫌味をやたらと放つウサに私は反論した。
「うるさい、ウサ!それくらいわかっている!」
すると奴はこう言った。
「だったらもっと拳王様を驚かせるくらいお役に立てる事でもしてはどうですか?これまで拳王様の前であれだけの功績を挙げてきたあなたならそれくらい出来るでしょう?南斗一の女戦士でもあるあなたなら。」
「ラオウ様を驚かせるくらいお役に立てる事…」
「まあ、せいぜいお考え下さい。オホホホホ…」
そう笑いながらウサは部屋を出た。
 その翌朝、ラオウ様は兵士を率いて各地の見回りに出かけた。その際、ラオウ様は私にこう言った。
「シグナムよ。俺はこれより我が支配下の町を見回りに出かける。3日ほど城を空けるがその間、この城の事はお前に任せる。良いな?」
「ハッ!お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
こうしてラオウ様は城を留守にした。
それから私はずっと考え込んだ。ラオウ様を見返す方法を。私は散々悩んだ。
「お前は素直に俺の言う事だけ聞いていれば良いのだ!」
ラオウ様のそのきついお言葉が何度も私の脳裏をよぎった。その度、私は悩まされ、悔しさのあまり壁を殴った。
「くそう!」
それから風呂をあがり、部屋に戻りまた一人考え込んだ。その末、ようやく思いついた。最早、これしか方法は無い。私はラオウ様宛ての置手紙を書いて残した。そこにはこう書いた。
「ラオウ様。私はあなたへの誓いを破ります。勝手な行動をお許し下さい。」
城を出ようとした時、ウサが話し掛けて来た。
「行かれるのですな?シグナム殿。」
「あぁ。ウサ、お前のアドバイスには礼を言おう。」
「いえいえ。私は別に何もあなたのために言ってはおりません。しかしこんな事をして拳王様は相当お怒りになるでしょう。それでもよろしいのですか?」
「構わん。私は捨て身の覚悟だ。ではもう行く。城の後の事は任せたぞ。」
「お気をつけていってらっしゃいませ。オホホホ…。」
そう言って私はウサの下を離れ、城を出た。
 ウサは普段は大人しい様子だが実はああ見えて頭の切れる策士的役割も密かに持っている。各軍団の隊長にちょっとしたアドバイスを与えたり、そして何よりあのトキの名を語り悪事を続けていたというアミバにトキの個人情報を密かに教え、アミバが人体実験で見つけた新たな秘孔を記した書物をラオウ様に届けていたのもウサだったのだ。正にえんの下の力持ちだ。そして今、私にもラオウ様のお役に立とうというアドバイスをくれた。
そうして、これまで戦いにおいていつもラオウ様の傍についてきた私が初めて独断で戦いへの行動に出た。しかもラオウ様に無許可でだ。先の事は十分承知の上の行動だった。私は城を離れ、一人馬を走らせた。
私は目的地に行く前にある場所に寄った。そこは私の両親の墓がある墓地だった。そこでその墓にお参りをした。
「父さん、母さん。私ももうすぐあなた達の下に逝くかもしれません。どうかこんな親不孝な娘をあの世からお守り下さい・・・」
そう。これが最後の墓参りになるかも知れなかったから…。
 その直後、目的の場所に向かおうとした瞬間、1人の女性の声がした。
「あなたはこれから死にに行くつもりなのですね。ラオウのために。」
後ろを振り返るといつの間にか白服で長い髪の美しい女性の姿があった。私の顔を見つめるその女に私は言った。
「誰だお前は!?」
「私の名はレイナ。シグナム、あなたはこれから先の戦いで大きな人生の変化に巡りあうでしょう。」
「人生の変化?」
「ハイ。その時、あなたは最も相応しい本当の生きる道がわかることでしょう。きっとそれはラオウも望んでいる事・・・」
「どういう事だ!?何故私の名前を知っている!?ラオウ様も望んでいる?貴様、一体何者だ!?」
「私は戦う者をそれぞれ正しい道へと導く修羅の国の巫女。」
「修羅の国?巫女?」
「シンに敗れたケンシロウをリンとバットの住む村へと導いたのも、シンに組織の反乱が迫っている事を教えたのも、妹の敵を捜すレイをマミヤの村へと導いたのも、そしてあなた達と同じ時にジュウザとリュウガをユリアの墓へ導いたのも全てこの私が人知れず行った事。」
「何だと!?バカな事をぬかすな!そんなのただの偶然だ!」
「いいえ。あなたはこれまで戦う事だけに生きて来た。その人生がもうすぐ変わるでしょう。新たな人生を歩む時がすぐそこまで近づいています。」
「うるさい!私は戦うための人生を捨てるつもりなど一切無い!巫女だか何だか知らんがいい加減な事を言うな!たたっ斬ってやる!」
私は思わず逆上してその女に剣を振り掛かった。するとその女は無表情かつ無言のまま瞬間移動して全ての攻撃を難なくかわした。
「何!?どうなってる!?一体・・・」
「私の言う事を信じるも信じないもあなたの自由。ここから先の出来事はあなた自身の目でご覧になって下さい。」
そう言うとレイナはその場から消え去った。彼女は一体?私の人生が変わる?しかしそんな事は気にする事無く私もその場を去り、目的地へと向かった。


15.死兆星

その翌日、行き着いた先はとある村だった。ここに来た目的はただ一つ。“エサ”を手に入れるためだ。そこにリンとバットがいた。2人は旅先にこの村を訪れており、ケンシロウだけ拳王軍の偵察に一旦その場を離れていた。2人はケンシロウの帰りをここで待っているようだ。
「ケンシロウの仲間のリンだな?」
私が声をかけるとリンは驚いて言った。
「あなたは確か…シグナム!」
「覚えていてくれるとは光栄だな。すまんがお前には付き合ってもらう。」
「キャア!…ウッ…」
私はすぐさま、リンを気絶させ捕まえた。
「何するんだ!リンを離せ!」
「うるさい!」
抵抗するバットを叩き飛ばした。そしてこう言った。
「ケンシロウに伝えておけ。「この娘を助けたければ南斗の第3の修行場まで1人で来い」とな。」
「何だと!?」
「待っているぞ。さらばだ!」
そう言って私はリンをその場から連れ去り、バットに言った通り南斗の第3の修行場にやって来た。もう既に用意はしておいた。私はその中の建物の中に置いておいた牢屋に気を失っているリンを閉じ込めた。そして夜を迎えた。
「うっ…うっ…ここは?」
リンが目を覚ました。私はその娘に近づいた。
「気がついたか。」
「シグナム!ここはどこ?」
「ここは南斗第3の修行場。数ある南斗の修行場の一つ。お前もよく知るシン様やレイ様もかつてはここで修行を積んだ。私にとっても思い出の場所だ。」
「こんなところにあたしを連れてきてどうするつもり?」
「ケンシロウはお前を助けにもうじきここに来る。その人質だ。」
「人質?あたしを殺すの?」
「安心しろ。私はケンシロウとこの場で闘いたいだけだ。お前には奴をおびきき寄せるための餌になってもらうだけ。殺すつもりは無い。」
「どうしてそこまでしてケンと闘いたいの?」
「1人の南斗の戦士として救世主と謳われ続ける奴をこの手で倒す。」
「そんな事しても意味なんかないよ!やめて!」
「うるさい!ではこちらからも聞こう。お前は何故そこまでケンシロウを慕う?」
「ケンと出会うまであたしとバットはただの臆病な子供だった。でもケンと出会ったおかげであたし達は勇気を教わった。ケンは何度もあたし達を助けてくれた。そんなケンといつまでも一緒にいたいの。」
「フッ…そうか。まだまだ子供だな。ケンシロウもお前みたいな子供につきまとわれてかえって迷惑してるかもな。」
「そんな事絶対ないわ!ケンはいつもあたし達を見守ってるくれてるもん!ケンの事を悪く言うのはやめてよ!」
「何とでも言え。お前がそこまで慕うケンシロウをこの手で倒す!」
その後の夜、私は檻のある部屋を出て闘技場の前で夜空を見上げた。すると星が満開だった。北斗七星もよく見えた。そしてその脇の輝く死兆星も見えた。私にもついに死すべき時が近づいているようだ。でも私は恐れはしなかった。稽古のため周囲に置かれた炎上する藁人形を私は剣で一刀両断した。私はこれから始まる闘いに全ての生涯をかけるつもりだ。戦って死ぬ。それこそ戦士として理想の最期なのだから。そう。私は戦士なのだ。


16.一騎打ち

そして翌朝、ついにケンシロウが現れた。私は闘技場の上で静かに奴を待ち構えていた。
「よく来たな。ケンシロウ。」
「お前は・・・!」
「我が名は南斗烈火拳のシグナム。拳王様に仕える者だ。」
「シグナム!リンは無事か!?」
「安心しろ。あの娘ならそこにいる。」
私は闘技場のすぐ横に移した檻の中のリンを指差した。
「ケ〜ン!」
リンがケンシロウに叫んだ。
「リン!貴様、どういうつもりだ!?これはラオウの差し金か!?」
「いいや、これは私が拳王様の許可無しで自ら買って出た行動。私は1人の戦士として貴様と闘いたい。それだけだ。」
「何!?」
「拳王様を無視して動いた以上、もはや背水の覚悟だ。南斗六聖拳の内、5人が死んだ今、この私が南斗の頂点となる。そのためには北斗神拳伝承者である貴様を倒す。それが唯一の方法。貴様を倒し、拳王様をも凌駕してみせる。」
「ラオウを凌駕するだと?」
「さあ構えろ!ケンシロウ!シン様やサウザー様を倒した貴様の実力、確かめてやる!女だからと言って手加減はするな!私は南斗六聖拳とも手合わせした事もある南斗一の女戦士!その誇りに掛けてこの手で貴様を倒す!」
「良かろう。お前の俺に対するその闘志とくと受け止めた。」
「ものわかりが早いな。では行くぞ!」
こうして闘技場の上で私とケンシロウの一騎打ちが始まった。私は剣をすかさず振りかざしそこから真空波を放ちケンシロウの顔にかすり傷を負わせた。
「これは…!」
「我が拳は剣に闘気を纏い敵を斬る。その前に斬れぬものは何一つ無い!」
私はその勢いに乗って次々と攻撃を繰り出した。だがケンシロウはかわしてばかりだった。
「どうした!お前の力はそんなものではあるまい!」
私は勢いをかけた。するとケンシロウは構え、技を放った。
「北斗神拳 水影心!」
「これは…南斗聖拳!相手の拳を己の分身となす技か!」
「南斗の拳が相手なら同じ拳で闘おう。」
するとケンシロウは素早く私に近づき、殴り飛ばした。
「ほう。やっとやる気になったか。それなら面白い!」
私は強力な闘気を剣に纏わせた。
「何と言う凄まじい闘気!」
ケンシロウも少々驚いていた。
「受けてみよ!南斗烈火拳奥義!火竜一閃!!」
剣を振りかざし、炎の如く熱い闘気をケンシロウに浴びせた。この技の前ではさすがの奴も相当応えるはず。闘気から吹き出た煙が周囲を大きく包んだ。
「ケ〜ン!!」
その様子を見てリンが叫んだ。煙が治まるとケンシロウは私の放った技を防御で防いでいた。
「何!?この技を受けても平気でいるとは…!」
私は驚いた。するとケンシロウは私の前にすかさず近づき連続攻撃を浴びせた。
「オワタァ!アタタタタ!!」
私はその攻撃を防御したが甲冑の一部が破損した。負けずに私も攻撃を次々と送った。ケンシロウの攻撃とのぶつかりあいだった。そしてケンシロウの攻撃が私の剣を折った。ケンシロウが手を止めて言った。
「これでもう南斗烈火拳は使えまい。」
「フッ、甘いな。テヤァ!!」
私は一瞬戸惑ったように見せかけすぐさま手刀でケンシロウを攻撃した。
「ムゥ!まだ闘えるというのか…!」
「南斗烈火拳は剣技が主体だが、それだけでない。この拳と脚で烈火の如く熱き技を繰り出す事も極意の一つ。私が南斗一の女戦士と言われる理由を思い知らせてやる!喰らえ!」
私はそう言うと手足を使った技の連続でケンシロウを追い詰めた。
「とどめだ!ケンシロウ!」
渾身の一撃を放とうとしたその時、ケンシロウは両手から闘気を放出し、私はそれに吹き飛ばされた。ケンシロウが言った。
「これでもまだやるというのか?」
「当たり前だ!こうなれば奥の手を見せてやろう!ウォォォ!!」
そう言って私は身体の中に溢れる全ての闘気を高めた。そして心の中でこう呟いた。
(ラオウ様、私に力を・・・!)
「この技は…!もしや!」
ケンシロウが呟いた。この技を使うのは初めてだった。
「受けてみよ!北斗剛掌破!!」
私は右手から闘気をケンシロウに目掛けて放出した。するとケンシロウはかすれただけでその技を交わした。
「これは…ラオウの技!何故貴様が?」
「私はこれまでラオウ様の戦いぶりを何度もこの目に焼き付けてきた。その時、盗んだのだ。この奥義を!ついに私も北斗神拳を使うことが出来たのだ!」
私は感無量だった。ラオウ様が冥王との戦いでこの技を使ったのを初めて見て以来、私はその技を密かに特訓していたのだ。その特訓と長い戦いの末についに会得する事に成功したのだ。その勢いに乗ってさらに放った。
「もう一度、受けてみるがいい!北斗剛掌破!!」
「フン!!」
するとケンシロウも同じ技を放ち、ぶつかり消滅した。爆風が起きた。
「何!?貴様も北斗剛掌破を!そうか。さすがは北斗神拳伝承者だな。」
「これ以上、この技を使うな。お前にはまだ無理だ。」
「何だと・・・ウッ!」
すると私は急激に身体に疲れが走った。かなりの力を使う北斗剛掌破が私には重荷となったようだ。それでも私は戦おうとした。するとリンが言った。
「もう止めて!シグナムさん!これ以上戦っちゃ駄目!」
「リンの言う通りだ。これ以上、俺と闘う必要はない。さっさとこの場を去れ。」
ケンシロウもそう言った。だが私は認めなかった。
「うるさい!さっきも言ったはずだ。私にはもう帰る場所など無い!お前を倒すまでは死なん!帰らん!南斗の戦士として…一歩も退かん!!ウォォォ!!」
私は最後の力を振り絞ってケンシロウに殴り掛かった。するとケンシロウは私の腹部を素早い連続の拳で殴った。だが苦痛は感じなかった。
「これは…北斗有情猛翔破…。サウザー様を倒した時と同じ技を…!」
倒れて息切れの激しい私にケンシロウは話しかけた。
「シグナム、お前の事はシュウやトキから聞いていた。サウザーの城から抜け出し倒れている俺を助け、シュウの下に運んでくれた事やトキの村にお前の妹を預けている事なども全て知っている。2人とも言っていた。お前は決して悪い女ではないと。お前には他人を思いやる気持ちがある。俺も初めて見た時からそれに気付いていた。こうして戦ったのはお前へのせめてもの礼だ。」
「フッ…お前も人を見抜く目が鋭いな。さすがラオウ様とトキの弟。それで有情拳を使ったというのか。」
「そうだ。今ならまだ助けられる。今度こそ正しい道を選べ。」
「悪いがそんなつもりはない。」
私は落ちていた剣の刃先を拾い、それを自らの腹に突き刺した。
「な、何を…!!」
「私は…最期まで戦士としての生涯を送るつもりだ…。戦って死ぬ…これこそ戦士として理想の最期…。最後の相手がケンシロウ…お前で良かった…。さすがはラオウ様が最も認めておられる男。これで悔いも残さず死ぬ事が出来る…。間もなく私にも死兆星が落ちるようだ。さらばだ…ケンシロウ…」
「シグナム!」
「シグナムさん!」
ケンシロウとリンが私の名を呼んだ。だがそれもだんだん遠のき、私は気を失おうとしていた。そう。私は死ぬのだ。これでもう何も…


17.慈悲

私は死んだのか?周りは真っ暗だ。そうか…死んだのだな。
「…ちゃん!…姉ちゃん!」
ん?誰かの声が聞こえる。あの世の使者が迎えに来たのか?
「シグナム姉ちゃん!」
この声はどこかで聞いたことがある…まさか…。すると少しずつ目の前に光が見えてきた。そしてふと目を覚ました。
「ウッ…」
「気がついた?シグナム姉ちゃん!」
「ハヤテ、ヴィータ…何故?」
目の前にハヤテとヴィータがいた。声の主はこの2人だった。私は民家のベッドの上にいて怪我の手当てがされていた。
「シャマル!サキ!姉ちゃんが目を覚ましたよ!」
ヴィータがシャマルとサキを呼ぶとそこに2人が来た。
「気がつきましたか?シグナムさん。」
一体、何がどうなっているのかわからない私は彼女達に尋ねた。
「シャマル、サキ。私はどうしたというのだ?ここはどこだ?私はケンシロウとの一騎打ちで死んだはず。」
「ここはトキ様の村です。」
「トキの村?トキは死んだのでは?」
「確かにトキ様は既に他界しました。でもその後も私達や残った人達で村を治めているのです。トキ様からの御恩や彼の死を決して無駄にしないために。」
「そうか。偉いな。で、誰が私をここに?」
「ケンシロウ様です。」
「やはりそうか。では奴が秘孔で私の命を…」
「いいえ、ケンシロウ様は気を失っているあなたをこの村まで連れて来てくださっただけです。」
「では一体誰が…ハッ!まさか!?」
ジャギもトキも亡き今、ケンシロウの他に秘孔の術を使う事が出来る北斗神拳の使い手と言えば1人しかいない。
「ハイ。ケンシロウ様から聞いた話によると…」
シャマルは全てを話した。それによると南斗第3の修行場で私が倒れた直後にラオウ様が直接やって来てこんな事になったらしい。
「秘孔点穴の術を施した。もうじき目を覚ます。」
「良いのか?ラオウ。この女はお前の直属の部下でありながらお前に逆らってまでこうして俺との戦いに挑んだというのに…」
「構わぬ。この女はよほどお前との戦いを望んでいた。そんな考えなどとうに見抜いておったわ。」
「目を覚ましたら連れて帰るのか?」
「いや、後の事はお前に任せる。好きな場所にでも連れて行くが良い。」
「ではもうこの女はいらぬと言うのか?」
「左様。この女は俺のために十分働いてくれた。これ以上俺の下にいる必要は無い。あとは好きにさせてやる。」
「どういう風の吹き回しだ?いつもならすぐに殺しているものを。」
「この女は他の奴らとは大きく違った輝きがあった。女でありながら見事な戦いぶり、兵士達の統一、そして俺への忠誠心。随分と驚かされたものだ。こやつは正に俺が求めていた理想の部下だった。そんな奴をこう簡単に死なすのはあまりにも惜しい。これはほんの礼だ。」
「ラオウ…」
「後で伝えて置け。「もうこれ以上俺のために…いや、誰かのために戦う事などするな。これからはお前の自由に生きろ」とな。」
「ああ、わかった。ありがとう、ラオウ。」
「言っておくが他人への情けはこれが最後だ。この世を支配するのはこの拳王ラオウ!その名誉のために貴様は必ずこの手で倒す!今はその命預けておこう。貴様がさらに腕に磨きをかけ救世主の名を高めた時こそ倒すに相応しい時。」
「ああ、北斗神拳伝承者として…この世の救世主として俺も貴様を倒す!」
「待っているぞ、ケンシロウ!さらばだ!」
 こうしてラオウ様は秘孔の術で私の命を救い、ケンシロウに私を託してその場を去ったという。
「そんな・・・。ラオウ様が私を…」
シャマルが言った。
「ラオウ様は最後まであなたを大変認めておられていたそうです。だからこうして命を救って下さった。」
「ラオウ様…」
サキも言った。
「ケンシロウ様も言っておられました。「お前はもうその手を血で染める必要は無い。後はこの村で妹達と静かに暮らせ」と。」
「ケンシロウ…」
ケンシロウは私をここに連れて来てからすぐリンとバットと共にまた旅に出かけたらしい。礼を言いたかったのだが残念だった。シャマルが言った。
「狂っていながらも私達を助けて下さったシン様と同様、あの恐怖の存在であるラオウ様もあなたを救って下さったのです。人は決して悪いところだけではありません。ラオウ様は心の奥底に残る慈悲をあなたに捧げたのでしょう。」
「ラオウ様…。私は・・・わたしは・・・」
私はラオウ様への感謝の涙が止まらなかった。ハヤテがそんな私に言った。
「ラオウさんは姉ちゃんをこれ以上戦いに巻き込みたくない、自由になって欲しいと思って僅かな優しさで助けてくれたんよ。ラオウさんの望んでる通りや。姉ちゃんはもう戦わんでええねん!せっかくの優しさを無駄にしたらあかん!」
ヴィータもそれに続いて真顔で言った。
「ハヤテ姉ちゃんの言う通りだよ!姉ちゃんはもう誰のものでもない!南斗の宿命だか掟だか知らないけどもうそんなのどうだっていいんだ!ラオウだけじゃねえ!ケンだって、死んだトキだって姉ちゃんの自由を望んでるんだ!」
「そやそや!姉ちゃんもここで暮らそ!トキさんは死んだけどシャマルさんやサキさん、他にもいろんな人らがこの村を支えてくれてはるから心配はいらん!今度こそあたしら姉妹、仲良く暮らそうな!」
2人の目は真剣だった。シャマルも言った。
「私とサキも助けてくださったシン様やトキ様の死を無駄にしないために今もこうして生きています。あなたもラオウ様の貴重な好意を無駄にしてはいけません。ですから…」
私は素直に答えた。
「わかってる。私はもうどこにも行かない。皆の望み通りここで暮らそう。」
そう言うとハヤテとヴィータはとても嬉しそうな表情で抱きついてきた。
「お姉ちゃん!約束やで!もうどこにも行かんといてな!」
「姉ちゃん!ずっと一緒にいような!」
「ああ、勿論だ。お前達はこの世で唯一の私の大事な妹だから…。これまで心配掛けてばかりですまなかったな。こんな馬鹿な姉を許してくれるか?」
「当たり前や!お姉ちゃんは馬鹿なんかやない!」
「そうだ!姉ちゃんはあたし達の自慢の姉ちゃんだ!自分を責めるなよ!」
私達3姉妹はそうして泣きながら温もりを感じあった。私は改めて肉親の大切さを痛感した。これぞ正しくサウザー様が師父オウガイとの間で感じていたのと同じ愛なのだろう。彼の気持ちがとてもよくわかる気がした。こうして新たな誓いを立てた私はシャマルとサキに言った。
「そういうわけだ。これからよろしくな。」
「こちらこそ。」
「トキ様もあなたがここで暮らす事を望んでおられましたから。これからは共に仲良く暮らしましょう。」
2人とも嬉しそうだった。こうして私は戦いを捨て、この村で暮らす事を選んだ。ラオウ様の好意、そして慈悲の心を無駄にしないために。
その夜、星空を見上げると前までいつも見えていたはずの北斗七星の脇に輝く死兆星が見えなくなっていた。ラオウ様が私に落ちそうになっていた死兆星を消し去ってくれたのだ。私はそんなラオウ様への恩を決して忘れない。
「おわかりになりましたか?それがあなたの本当の生きる道です。」
1人の女性の声が私の耳に聞こえてきた。あの時、私の目の前に現れた巫女・レイナだった。いつの間にか目の前にいた。
「ああ、私はやっとわかった。お前の言う通りだった。これからは1人の女として妹達とここで共に生きよう。レイナとやら、本当にありがとう。」
「1人1人に起こりうる出来事は全て運命。あなたのこれまでの出来事も現在の事も、そしてこれから先の事も全て運命なのです。新たな運命が切り拓かれた今、あなたはこの道を迷う事無く進んで下さい。」
「そうするよ。しかしお前は一体・・・?」
すると後ろからハヤテとヴィータが話しかけてきて私は振り向いた。
「お姉ちゃ〜ん!誰と話してるん?」
ハヤテがそう言うと私はレイナを紹介しようとした。
「ああ、この人は・・・」
レイナがいた方を振り返るといつの間にか彼女の姿が消えていた。
「え?誰もいいひんやん。」
「おかしいな。確かにさっきまでここに…」
私は疑問を抱いた。ヴィータが言った。
「だいぶ前からシグナム姉ちゃんを見てたけど誰もいなかったぞ。独り言か?」
「そ、そんなはずは…」
「お姉ちゃん、戦ってばっかで疲れておかしくなってるんちゃう?早く休み。」
「そ、そうする・・・」
レイナの姿は他の者には見えていなかったというのか?彼女は神の存在なのかも知れない。でも私はそんな彼女に本当に感謝してる。ありがとう、レイナ・・・


18.再会

 それからしばらくしたある日、3人の男が私達の村を訪れた。内1人はやたらでかい体の持ち主だった。そこで子供達の相手をしている私とシャマル、サキの前にその3人は現れ内1人がこう言って来た。
「シャマル様にサキ様、そしてシグナム様ですね?」
シャマルが答えた。
「ええ、そうですがあなた達は?」
「南斗五車星の1人・風のヒューイと申します。」
「同じく炎のシュレン。」
「同じく山のフドウ。」
私はその自己紹介に驚いて彼らに言った。
「南斗五車星?お前達があの南斗正統血統に仕える・・・」
確かにその通りだった。以前に会ったジュウザとは違って主への忠誠心はとても高そうだった。シャマル達も意外な来客に驚いた様子だった。
「でもそんなあなた達が何の御用ですか?」
シャマルが尋ねた。するとヒューイが答えた。
「我らが主・南斗最後の将があなた方3名にお会いしたいと直々に申し上げており、こうしてお迎えにあがりました。」
サキが驚いて言った。
「南斗最後の将が私達に?」
シュレンが答えた。
「詳しい話は城に着いてから将の口から説明されます。」
「でも子供達の面倒が・・・」
シャマルが留守の間の子供達の面倒が出来なくなるため困った。するとフドウが明るい表情で言った。
「それならご安心を。あなた方が村を空ける間、私がこの子達の面倒を見ておきましょう。」
「え?良いんですか?」
サキが不安そうに聞いた。
「こう見えても子供の面倒を見るのは大好きなんですよ。きっとあなた方ならそう言うだろうと思って私もこの場に同行したのですから。」
フドウがそう言うとシュレンが彼に言った。
「相変わらず子供好きだな、フドウは。」
ヒューイが私達に言った。
「フドウの言う通り、子供達や村の事は彼に任せてあなた達は我々について来て下さい。将がお待ちです。」
「そこまで言うならそうしよう。」
「ではご案内いたします。ついて来て下さい。行くぞ、シュレン。」
「ああ。ではフドウ。後は任せたぞ。」
「わかった。シュレンとヒューイは早く彼女達を将の下へ。」
シャマルは出かける前に子供達に言った。
「では私達は少し出かけてくるからあのフドウって大きい人の言う事を聞いておとなしくしてるのよ。」
「うん!」
子供達は頷いた。
こうして私とシャマル、サキの3人はヒューイとシュレンと共にジープに乗って将の下へと出かけた。そうしながら私は2人に質問をした。
「一つ尋ねたい事がある。」
「何でしょう?」
「前に私達はお前達と同じ五車星のジュウザと出会った。彼もその南斗最後の将の事を知っているのか?」
「いいえ、奴は我らと同じ五車星でありながら将への忠誠心は皆無。それ故に将に関する詳しい事も一切教えておりません。」
「やはりそうか。見ての通りだった。」
「あいつも将に素直に従っていれば素晴らしい戦力になるというのに・・・」
2人はジュウザに呆れた様子だった。無理もなかろう。
荒野を走る中、盗賊達が私達の前に立ちはだかった。
「おい!お前ら!水や食糧をこっちによこしな!さもなくば痛い目に遭うぜ。」「お?中々良い女も乗ってるじゃねえか。そいつらももらおうか。ケケケケ。」
盗賊の内2人がそう言うとヒューイが立ち上がろうとしたが、シュレンがそれを止めた。
「こんな奴ら、俺一人で十分だ。お前はここで彼女達を守っていろ。」
「任せたぞ、シュレン。」
そう言ってシュレンが車から降りて盗賊の前に出て構えた。
「来い!クズども!」
「何だと!?ブッ殺してやる!かかれ!」
盗賊達はシュレンに襲い掛かった。するとシュレンは両手から炎を繰り出しその炎で敵を切り裂いた。
「五車炎情拳!!」
「グアアア!あちぃ〜!!」
切り裂かれた敵は炎に焼き尽くされた。派手な技だ。さすが炎のシュレンと言われるだけある。シュレンは残った敵に言った。
「これ以上、痛い目にあいたくなければ直ちにここを去れ。」
すると我々の目を盗んで後ろに回った盗賊の一人がシャマルの腕を掴んで無理矢理車から降ろしてはがいじめにして刃物を向けた。
「キャア!」
悲鳴をあげるシャマル。
「おとなしくしねえとこの女をぶっ殺すぞ!」
盗賊はシャマルを人質に取った。私もすぐに助けようとしたが間に合わない。
「良い女だな。俺の女になれよ。そうしたら助けてやるぜ。」
盗賊はシャマルにナンパをしかけた。だがシャマルは拒絶した。当然だ。
「嫌ぁ!」
「嫌だと!?ふざけやがってこのアマ!もう怒った!殺してやる!」
盗賊はシャマルを殺そうとした。するとその瞬間、素早くそいつの背後に回ったヒューイがそいつの片腕を掴み挙げた。何と言う素早さだ。
「何しやがるテメエ!」
抵抗する盗賊。そいつにヒューイは厳しい眼差しで言った。
「うら若き女性はこの世の宝石。貴様のような外道には豚に真珠だ!」
「何だと!?」
襲い来る盗賊にヒューイは技を繰り出した。
「五車風裂拳!!」
「ギャアア!」
盗賊はヒューイの放った風の真空波によって切り裂かれた。するとヒューイは傍で崩れるシャマルに手を差し伸べて言った。
「お怪我はありませんか?お嬢さん。」
「え、えぇ…。ありがとうございます。」
「あなたのような美人に手を出す不届きな輩は私が決して許しません。」
「そ、そんな…美人だなんて…」
シャマルはヒューイの美形と優しい言葉に赤くなっていた。可愛らしい一面だった。そんなヒューイにシュレンが言った。
「それくらいにしておけ。早く行くぞ!」
「ああ、すまない。では行きましょう。」
「は、はい…。」
ヒューイはシャマルの手を優しく掴んで車に乗せた。
「お手数をお掛けしました。それでは参りましょう。」
シュレンに言われ、私達は再び城へ向かった。
そうして辿り着いた先は巨大な城だった。
「これが南斗最後の将の居城…」
それを見上げて私は将の偉大さを感じた。シュレンが車から私達を降ろした。
「さあ、どうぞ中へ。ここから先はあなた方だけで行って下さい。」
「あの・・・あなた達は?」
サキがヒューイとシュレンに聞いた。
「我々は別の場所から将をお守りする役目を持っています。そのためこれにて失礼いたします。」
「今でも将の命を狙う輩が後を絶ちません。そんな奴らから将をお守りするのが我らの役目。」
「そうか。ではありがとう。2人とも気をつけてな。」
私は2人に礼を言った。するとヒューイがシャマルの手を掴み一枚の地図を渡して言った。
「我が風の旅団の城の地図をお渡しします。何かあればいつでもここに私をお呼び下さい。風の如き速さで駆けつけますから。将同様、お守りいたします。」
「あ、ありがとうございます・・・」
シャマルはまたそんなヒューイに赤くなって礼を言った。サキがそんなシャマルに言った。
「お姉さま、もしかしてヒューイさんに惚れた?」
「そ、そんな事ありませんよ!さあ、行きましょう!」
ふと我に返ってそう答えた。こんな可愛らしい彼女は初めて見た。
「ではシュレン、ヒューイ。世話になった。行こうか。シャマル、サキ。」
私はそう言ってシャマル、サキと共に城の中へ入って行った。
別れを告げた直後、シュレンがヒューイに何か言ったようだった。
「全く。相変わらずレディーファーストだな、お前は。」
「当然だ。女性は宝石。これが俺の考えだから。特にあのシャマルさんは本当に美人だった。将の次に綺麗かもな。そういうお前は男好きか?」
「バカ言うな!俺はお前みたいに女に興味が無いだけだ!つまらん話はやめて俺達は城に戻って拳王軍の追跡を続けよう。」
「ああ。そうだな。フドウには引き続きケンシロウの行方を追ってもらおう。」
「それは彼女達が村に戻ってからでも良いだろう。俺達はいつでも敵軍との戦いに出られるよう備えておかねば。」
「ああ、俺達は兄弟星。いかなる時も痛みを分かち合う。お前が死んだ時は必ず俺が仇を討つ。安心しろ。」
「ありがとう、シュレン。」
所変わって城の中。私達はまるでパーティーに招かれたような気分だった。広間に着くとそこには1人の女性が待っていた。そして私達にこう言った。
「ようこそお越し下さいました。シャマル様、サキ様。そしてシグナム様。」
私がその女に聞いた。
「お前は?」
「私は南斗五車星の1人・海のリハクの娘・トウと申します。」
「お前も私達と同じ南斗の女か。」
「ハイ。五車星の1人としてこの城で我が将をお守りするのが私の役目。」
「それがお前の宿命か。ご苦労な事だな。」
「己の生涯を将に捧げるのが五車星の運命。何の躊躇いもございません。」
「そうか。私もついこの間まで南斗の宿命に振り回せれてばかりだった。お前の気持ちはよくわかるぞ。しかしお前の父・リハクはどうした?」
「父は敵軍の偵察のために出払っております。間もなくここに我らの将が来られます。もう少々お待ちください。」
その後、仮面で顔全体を隠した1人の人物がやって来た。トウがその人物の前で姿勢を礼儀良く正した。どうやらこの人物こそ南斗最後の将のようだ。私達は偉大な存在を目の前にして緊張した。将は私達の前に立つとこう呟いた。
「お元気でしたか?シャマル、サキ。そしてシグナムさん。」
その一言を聞いた時、不思議な懐かしさを感じた。それはシャマルとサキも同じようだった。何故なら聞いた事のある声だったからだ。
「その声…まさか…あなたは…!」
サキは声を震わせて言った。すると将は目の前で仮面を外し、その素顔を見せた。それを見た時、私達はものすごい衝撃を受けた。
「ユ、ユリア様・・・!」
「お久しぶりです。」
何と将の正体はユリアさんだった。笑顔を浮かべる彼女にサキは大粒の涙を浮かべながら思わず抱きついた。
「ユリア様、ユリア様!ご無事だったのですね!会いたかった・・・!」
「心配をかけてごめんなさい。あなた達も元気で何よりです。」
シャマルも近寄り言った。
「ユリア様・・・本当にユリア様なのですね?」
「ええ。私はこの通り、生きております。」
「夢ではないのですね?ユリア様!」
正に夢のような光景にシャマルも感激した様子でユリアさんに泣きついた。私は疑問を感じただその場に立ち止まっていた。すると彼女は私に言った。
「シグナムさんもお元気そうで何よりです。ハヤテちゃんもヴィータちゃんも元気ですか?」
「え、ええ・・・。トキの村で元気に過ごしています。」
「それは良かった。」
「しかしまさかあなたが南斗最後の将だったとは・・・。」
「驚かせてごめんなさい。」
「でもあなたはサザンクロスで死んだはず。なのに何故?」
私の質問にトウが答えた。
「それは私の口から説明しましょう。実は…」
トウは全ての真実を私達に教えた。サザンクロスのシン様の居城から飛び降り自殺を図ったユリアさんはジュウザを除く五車星の4人とトウによって助けられた。彼らの口からユリアさんがラオウ様から狙われている事を知ったシン様はあえて彼女を五車星に託し、ユリアさんを死なせた悪名を被り、表向きには死んだ事にしたのだと言う。その後、ユリアさんはこの城で南斗最後の将として仮面で正体を隠しながら事の成り行きを人知れず見守っていたのだと言う。
「そうだったのですか・・・。それでてっきり私達もユリアさんは死んだものかと思い込まされていたわけですね。」
「私の命を狙う者から遠ざけるため、混乱を避けるためこのような形をとる以外はありませんでした。そのためにあなた方にも大変ご心配をおかけしてしまう事となりました。あなた方がサザンクロスに私とシンの墓を建てて下さった事もその墓に何度もお参りに来ていた事もトキの村で過ごしている事も以前から知っておりました。それなのに…本当にごめんなさい。」
ユリアさんは私達に詫びた。トウがそれに続いて言った。
「ユリア様もここであなた達の事をいつも大変心配されておられました。そしていつこの事を教えようかと何度も迷っておられました。だからどうかユリア様を責めないで下さい。」
するとサキが答えた。
「ううん、良いんです。責めるつもりなんてありません。ユリア様が目の前で生きていてこうしてまたお会いする事が出来たんですから。ね、お姉さま!」
シャマルも言った。
「ハイ。こうして生きておられただけで私達は嬉しい限りでございます。私達はサザンクロスを離れてからと言うものユリア様の事を忘れた事は一度もありませんでした。生きていてくれればと夢にまで思っておりました。その夢が叶ったのですから何も責める事などございません。だからユリア様も自分を責めないで下さい。」
「シャマル、サキ…ありがとうございます。私もあなた達のことを忘れた事は一度もありませんでした。本当に会いたかった・・・」
ユリアさんも2人との再会に涙を流した。そして私も彼女に本音を話した。
「ユリアさん、私もユダ様に仕えていた頃にあなたの死を知らされた時は悲しくて涙が止まりませんでした。それがこうして生きていてくれた。そして我ら南斗の者を統べる存在だった。本当に…嬉しいです。」
「あなたは南斗の戦士である掟や宿命に従いこれまでユダやラオウのために戦を続け血を流してきた。でも今はそれを捨ててトキの村で静かに暮らしている。その事を知って私は今こそあなた達と会うべき時だと決めました。今のあなたなら全てを打ち明けあう事が出来る。そう思いましたから。今のあなたは掟や宿命に縛られていない1人の純粋な女性です。」
「その通りです。もう私は戦わない。守るべき者、愛すべき者と共に生きる事を選びました。昔、あなたがおっしゃってた事がようやくわかりました。私は力に溺れない。今度こそ正しい道を生きるつもりです。」
「シグナムさん・・・今のあなたは輝いておられます。」
「ユリアさん・・・」
私はユリアさんの手を握った。私は彼女に大きく近づけた気がした。
 それからいろいろと話をした後、トウが言った。
「では皆様、そろそろ村へお帰り下さい。ユリア様はこれからまたやらねばならない事がございますゆえ。」
「え?そんな…。」
サキが焦った。ユリアさんが答えた。
「トウの言う通り、私はここで将としての役目を務めなければなりません。」
「嫌です!もっと…これからずっとユリア様の下にいさせてください!」
サキはユリアさんに頼んだ。
「気持ちはわかりますが、私はここにいずれやって来るケンシロウにも会わなければなりません。それを巡る争いにあなた達を巻き込ませたくはありません。ここで最後まで全てを見届けるのが私の運命。それに・・・」
「それに?」
「いいえ、何でもありません。あなた達は村でお過ごし下さい。人材や水、食糧の支援は送っておきます。村で子供達の面倒を見てあげていて下さい。」
「わかりました。」
私達は彼女の言うとおり、その場を去る事にした。
「ユリア様、今日は本当にありがとうございました。どうかお気をつけて。」
サキが言うとユリアさんはシャマルとサキ姉妹に答えた。
「シャマル、サキ。あなた達もお元気で。私の分も子供達を見守って下さい。」
「ハイ!」
「ありがとうございます。」
続いてユリアさんは私に言った。
「シグナムさん、妹さんを大切にしてください。」
「ええ、言われなくてもそうするつもりです。ハヤテとヴィータは私の大事な肉親。これ以上、悲しい思いはしないためにも守り続けます。」
「その心がけをいつまでも忘れないで下さい。」
「ありがとうございます。ユリアさんも無事を祈っています。」
こうして別れの言葉は終わった。私達はユリアさんに別れを告げ城を出た。外には送りの車が待っていた。車内には沢山の食糧や水も積まれていた。さらに村に必要な人材として兵士も数名乗っていた。ユリアさんが言った通りの村への援助だった。サキとシャマルが先に車に乗り、私も乗ろうとした時、トウが私を呼び止めた。
「あの・・・シグナム様。最後に少しだけよろしいでしょうか?」
「ああ、構わんがどうした?」
「一つあなたにお伺いしたい事がありまして、ちょっとこちらへ・・・」
トウは私を人気の無い場所に一旦連れて行った。
「で、何だ?伺いたい事とは?」
「あなたは以前までラオウ様に仕えておられたのですよね?」
「ああ、そうだが?」
「あなたはラオウ様の忠実な副官としてかなりの功績を挙げられ、ラオウ様からも一目置かれる存在だったと聞いております。」
「まあな。それがどうかしたか?」
「あなたの眼から見てラオウ様はどのようなお方だったでしょうか?」
「それはもう偉大なお方だった。あの強さは正に本物だった。」
「そういう強さ以外にも何かありませんでしたか?例えば人柄とか・・・」
「人柄か。まあ、捨てたものではなかったな。ラオウ様は私にだけ本心を語ってくれた。それを聞いて大いに感動したものだ。」
「本心?それは一体・・・?」
本心と聞いてトウは真顔で私に聞いてきた。だが私はこう答えた。
「残念だがそれを教える事は出来ん。これはラオウ様と私だけの秘密だ。彼の下を離れたと言えどその約束を破る事は決してしない。」
「そうですか・・・」
とても残念そうだったが仕方なかった。ラオウ様が私だけに話してくれた自身の生い立ち修羅の国の事などを誰にどう言われようとも口が裂けても教えるわけにはいかなかったのだから。私はその辺に関しても律儀だった。
「何故そこまでラオウ様の事が気になる?」
「いいえ、ちょっと・・・。もう結構です。ありがとうございました。」
「そうか。ではお前も気をつけてな。ユリアさんを守ってやれよ!」
「ありがとうございます。それではお気をつけて。」
そうトウに見送られ私も帰りの車に乗って村へ帰った。シャマルもサキも憧れのユリアさんと再会できて実に嬉しかったようである。当然だ。私もこれだけ嬉しい思いをしたのは久しぶりだったのだから。だが、トウがラオウ様を心の底で愛している事などその時の私は知る由も無かった。
(ラオウ様、やはりあなたはユリア様やシグナムさんのような強い女しか認めない男。私の事などとうにお忘れなのですね。こんなに愛しているのに・・・)


19.南斗5つの誓い

 その後、私達は村に帰って来た。するとハヤテら子供達とフドウが明るく迎えてくれた。ハヤテが言った。
「おかえり〜!シャマルさん、サキさん、シグナム姉ちゃん!」
子供達は皆、とても楽しそうだった。シャマルが聞いた。
「皆、元気にしてた?」
「ウン!フドウのおっちゃんがずっと一緒に遊んでくれたんだよ!」
「あの大きい体に僕達を乗せてくれたりしてすごく楽しかった!」
子供達のその様子に嘘偽りは全く感じられなかった。
「あ、おかえりなさい、皆さん。どうでしたか?」
そこにフドウが来て私達に聞いてきた。サキが答えた。
「ええ。とても感動しました。まさかあのユリア様とまた会えるなんて…」
「それはそうでしょう。ユリア様もあなた達とまた会える事をとても楽しみにしてましたから。私も嬉しいですよ。」
「それよりこの子達の面倒を見てもらってすまなかったな。」
私がフドウに言った。するととても明るい様子でこう答えた。
「いえいえ。こちらもこの子達と過ごせてとても楽しかった。もっとここにいたいくらいですよ。」
「そうか。それなら良かった。」
「おじちゃん!フドウのおじちゃん!」
子供の1人、アリサとユーノがフドウの服を引っ張った。フドウがその子らの方を振り向いて笑顔で聞いた。
「何だい?アリサちゃん、ユーノくん。」
「南斗5つの誓い!」
「お?もう覚えたのかい?言ってごらん。」
するとその子達は大声で交互に言った。
「1つ!親の言う事をきちんと守ること!」
「1つ!天気の良い日に布団を干すこと!」
「1つ!外に出る時は怪しい人に気をつけること!」
「1つ!他人の力を頼りにしないこと!」
「1つ!土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!」
それを聞いてフドウは拍手してその子達を誉めた。
「お!よく言えたねえ。えらいえらい。」
シャマルはその誓いとやらについて尋ねた。
「南斗5つの誓い?それは一体?」
「私とユリア様の2人で考えた子供達の誓いです。」
私もそれを聞いて何となく思い出した。
「そういえば昔、ユリアさんのいた施設で妹達を預けていた頃、2人がよくそれを口にしていたような気がする。」
「そうでしょう。子供達にはいつまでも元気に育っていって欲しい。その願いを込めてこの誓いを考えてよく子供達に教えているのです。」
「確かに子供達にわかり易い良い誓いですね。」
「私の住む村でも孤児達の面倒を見てましてね。そこの子供達にもこの誓いを教えています。」
「ほう。本当に子煩悩なんだな。ユリアさんやシュウ様と同じだ。」
私はそんな彼に感心した。
「それも皆、ユリア様が教えて下さった命の温かさ、大切さ故の行為です。私はこの手で生きとし生きる者全てを守りたい。」
「その気持ちは私達も同じです。共に命を守りましょう。」
「ええ。では私はそろそろ失礼致します。」
フドウがそう言うとアリサ達は残念がった。
「え〜!?もう帰っちゃうの!?」
「ごめんね。おじさんはやらなきゃいけない事があるんだ。それにおじさんの住む村にも君達のような大事な子供達が待ってるからね。もう帰るよ。お姉さん達の言う事ちゃんと聞いて元気に育つんだよ。良いね。」
「うん!」
 そうして私達は村の外までフドウを見送った。サキが礼を言った。
「今日は本当にありがとうございました。」
「いえいえ。それよりケンシロウさんは今どこにいるかわかりますか?」
フドウはケンシロウの居場所を聞いてきた。シャマルが答えた。
「さあ…。だいぶ前に倒れているシグナムさんをこの村に届けてくれてからすぐに旅立たれたから居場所まではわかりません。」
「そうですか。つかぬ事をお聞きしてすみません。」
「ケンシロウに何か用なのか?」
私がフドウに聞いた。
「我らが将・ユリア様からケンシロウさんに直接会って今こそ真実を伝えるよう命を受けておるのです。」
「それなら私達も協力してケンシロウを捜そうか?」
「いいえ。それは不要です。あなた達はこの村に残っていて下さい。これは私1人の仕事。関係の無いあなた達を巻き込むわけにはいきませんから。」
「そうか。なら健闘を祈る。早く会えると良いな。」
「ありがとうございます。それでは失礼致します。」
そう言ってフドウは村を去ってケンシロウを捜しに出かけて行った。
それからしばらくして私はヒューイとシュレン、そしてトウの死を知った。ヒューイとシュレンはそれぞれの軍を率いてラオウ様に立ち向かうも戦死。そしてトウはラオウ様からユリアさんを守るためにそしてラオウ様に会いたいがためにユリアさんの影武者となり、彼に本心を打ち明けるも全く通じず目の前で自害したらしい。命の恩人であるヒューイの訃報を知った時、シャマルは悲しそうだった。それにトウが城の前で私にラオウ様の事をいろいろと聞いてきたのはそのためだったのだ。こんな事ならあの事も特別に話してやれば良かった。そうすれば少しは彼女も満足できたかも知れない。私は彼女に対して悪い事をしてしまったような気がした・・・


20.LONELY STARS

 それから様々な苦難や戦いを乗り越えついにケンシロウとラオウ様は決着の時を迎えた。舞台は2人のかつての修行地・北斗練気闘座である。
「ラオウ!お前が天を握る事は無い!野望と共にこの地に眠るが良い!」
「もはや天などどうでも良い!いや、俺が目指した天とは貴様だったのかも知れぬな。そんな貴様と今こそ雌雄を決する時!」
「ならば受けて立とう!北斗神拳伝承者の誇りにかけて貴様を倒す!」
「受けてみよ!七星点心!」
「ぐっ!これは北斗神拳伝承者のみが使える秘拳。何故お前がこの奥義を!?」
「我らが師父リュウケンはお前が伝承者に決まった後、俺の拳を封じようとこの奥義を仕掛けてきた。だが奴は病に侵され俺に止めを刺すことが出来なかった。そのおかげで盗む事が出来た。この奥義をな!しかし実戦で使うのはこれが最初で最後。何故ならこれはあくまでリュウケンの奥義。他人の奥義で倒す事などつまらぬ。貴様は俺の持つ最強の奥義で屠ってみせよう!」
「ならば俺も奥義を振り絞ろう!北斗七死闘気断!!」
「面白い!こちらも行くぞ!ウォォォォ!!」
「ア〜タタタタタタ!!」
「我が闘気の中に入り込むとは…!強くなったな・・・ケンシロウ・・・」
「次の一撃が我ら最期の別れとなるだろう。俺やトキが目指した偉大なる長兄ラオウ…。その想いは未だこの心に消える事無く焼き付いている…。」
「涙など無用!ならば砕いてみせよ!この拳に我が生涯の全てを込めて!!受けてみよ!我が全霊の拳を!天に滅せい、ケンシロウ!!!」
「オワタァ!!!」
「グフッ!!グアァァ!!」
「ラオウ…まだ闘うか?」
「・・・もう良い。俺の負けだ。でかした弟よ・・・!これでもう思い残す事はない。俺を倒したこの世でただ1人の漢よ。その顔を最期によく見せてくれ…」
「兄さん・・・。俺がここまで強くなれたのもあなたのおかげ…」
「ユリアの命はあと数年は持つ!その数年間の人生を共に生きるが良い!」
「そ、そうか・・・。ありがとう。」
「礼など良い!さあ、行け!これからはお前達がこの時代を変えていくのだ!俺の全てをお前に託そう!生き続けろ!」
「わかった。さようなら、ラオウ…兄さん。」
「このラオウ、天に帰るに人の手は借りぬ!!ウォォ…!トキ、待っていろ。すぐお前の下へ行く。俺もまた天へ…!さらばだ、ケンシロウ。ユリア。そして・・・シグナム!」
その間、家の中にいた私はふと後ろを振り向いた。ハヤテが聞いた。
「どうしたん?姉ちゃん。急に振り向いて。」
「今さっき、誰かが私の名を呼んだ・・・!」
「そんなん気のせいやて。誰も呼んでなんていいひんよ。」
ハヤテはそう言うが私は確かに何かを感じた。すると外にいた子供が何かを見つけて叫んだ。
「何だ!?あの光!!」
私も気になって急いで外に出て子供が指差す方を見上げた。すると遠くの方で眩い光の柱が放たれ上空を貫き、雲を裂き、さらに眩い太陽の光が地上を照らし出した。村の者は全員同じものを見ていた。シャマルが言った。
「あの光は一体・・・?」
誰もがあの光に疑問を抱いた。だが私はそれが何かわかった。
「あの光はラオウ様。ラオウ様は自らの手で天に召されたのだ。」
間違いなかった。ついさっき私が感じたのもラオウ様だったに違いない。
「え!?と言う事は・・・」
サキが聞いて私は率直に答えた。
「ああ、勝ったのだ。ケンシロウがラオウ様に。拳王恐怖の伝説は終わった。あの光はそれを告げるラオウ様の最期の合図だ。」
私がそう言うと村人達は歓喜の声を上げた。今、人々は恐怖の呪縛から解き放たれたのだ。世紀末救世主の勝利である。
 その光は様々な場所で見届けられていた。五車星のリーダー・海のリハク。
「巨星落ちるか…。見るが良い。今この世に光が蘇ったのだ。だがラオウ、ケンシロウ、そしてユリア様がいなかったら、この世は永遠に闇に閉ざされていただろう。ラオウよ、さらば。そしてケンシロウ。ユリア様と…永遠に・・・」
この世に残った最後の海・「死の海」を渡る海賊の船長・赤鯱。
「とうとう逝っちまったか…。でも俺はあんたの事は一生忘れねえぜ。天は微笑んでるぜ!あんたの魂は修羅の国にずっと残る!そして俺はこれからもこの海を渡る!だから安心して眠ってくれよな、ラオウ!」
ラオウ様の故郷・修羅の国にもラオウ様の死を感じ取った1人の女性がいた。ラオウ様の実の妹・サヤカ。
「・・・!」
「どうした?サヤカ。」
「いいえ、何でもありません。」
「何か嫌な事でも思い出したか。それならいつでも俺に言え。」
「ありがとう、ヒョウ。」
「じゃあ俺はまた戦に出かけてくる。」
「毎日、戦で大変ですね。お兄様にもよろしく伝えておいて下さい。」
「ああ、わかった。お前はここでゆっくり休め。俺の大事な恋人なんだから。」
「心配しなくても平気です。行ってらっしゃい。」
「じゃあな。」
(ラオウお兄様…。とうとう逝かれてしまったのですね…。でもお兄様がこの国に残した伝説は永遠です。だからトキお兄様とお安らかにお眠りを・・・)
そんな中、私はその場で静かに立ちすくまっていた。しばらくすると私の耳にレイナの声が聞こえてきた。
(シグナム。聞こえますか?)
私とレイナは誰にも聞こえない心の中の呟きで会話した。
(その声はレイナ。どこにいる?)
(私はその場にいません。精神を通してあなたの心にだけ話し掛けています。)
(そうか。それより何か用か?)
(ラオウの魂は天に召されました。さあ、あなた達も向かいなさい。ケンシロウ達はラオウとトキのお墓の前にいます。そこでラオウとトキ、そしてケンシロウとユリアに最後の別れを伝えるのです。)
「ああ。わかった。ありがとう。シャマル、サキ。行くぞ!」
私はレイナに言われたとおり、シャマルとサキを誘った。シャマルが聞いた。
「い、行くっていきなりどこへ?」
「ついて来たらわかる!お前達からも思いを彼らに伝えるのだ。」
「ハ、ハイ…」
 そうして私とシャマル、サキの3人は馬に乗ってとある場所にやって来た。そこにはリンとバットの姿があった。私は2人に言った。
「リン、バット。やはりここにいたか。」
リンが言った。
「シグナムさん。それにシャマルさんにサキさんまで。どうしてここに?」
サキが答えた。
「あなた達ならきっとここにいるってシグナムさんが案内してくれたのよ。」
その場所とはラオウ様とトキの墓がある場所だった。
「よくこの場所がわかったなあ。」
バットが言った。私は答えた。
「私も以前に一度ここに来た事があったからな。それに…」
「それに?」
「いや、何でもない。ただの勘だ。」
私はあえてレイナから聞いた事を他の連中に一切教えず誤魔化した。
「ラオウ様に仕えていた頃、彼が私にだけこの場所を教えて下さったのだ。この場所の事もこの墓の事も全て彼の口から聞いた。先ほど、天に放たれた光を見てここしかないと思って来た。」
「ラオウが?本当かよ?」
リンや他の3人もそれを聞いて驚いた表情で私を見た。
「嘘ではない。私は知っている。彼の本心を。彼が自ら私にだけそれを打ち明けてくれたのだ。」
「ラオウの本心?」
「ああ。それはとても素晴らしいお言葉だった。でも生憎だがその詳しい事はお前達と言えど教える事は出来ない。」
「何だよ、ケチ!」
バットが文句を言った。シャマルが話を変えてリンとバットに聞いた。
「それよりケンシロウさんとユリア様は?今まで何があったの?」
すると2人は全てを語った。ケンシロウとラオウ様はかつての修行の地である北斗練気闘座で最後の死闘を繰り広げた。2人ともこれまでにない凄まじい闘気を放ちながらの激しい闘いぶりだったらしい。やはりそうだろう。私もその闘気を離れた場所にあるトキの村にいるにも関わらず感じたのだから。拳法の正しい心得を持つものならどんな微かな闘気も感じる事が出来る。そのためトキの村で唯一の拳法家である私にのみそれを感じた。そしてその激闘の末、ケンシロウが勝利し、ラオウ様は自らの手で全ての力を天に放ち、昇天されたらしい。あの光はやはりその時のものだったのだ。リンが言った。
「ラオウは最期にこう叫んだわ。」
「我が生涯に一片の悔いなし!」
「…って。そうしてラオウは死んでケンが火葬して、この墓に埋めた。」
その言葉を聞いて私は大いに感動し、他の者に問うた。
「実に素晴らしい名言だ。お前達にその言葉の本当の意味がわかるか?」
「意味?」
「ああ。ラオウ様は世紀末覇者である以前に1人の漢。漢にとって己が最も闘うべき相手と闘い、死ぬ事こそ本望。その相手こそケンシロウ。そしてケンシロウにはラオウ様が捜し求めていた愛や哀しみを全て持っていた。そんな男と全力で闘い合い、倒される事が何よりの望みだったのだ。」
私にはそれがわかった。あの時、私にだけ話してくれた彼の本心。そして共に過ごした日々がそれを感じさせていたのだ。間違いない。リンが言った。
「そういえばユリアさんも言っていたわ。」
「統一を果たしたラオウは自分が愛を持つ者に倒され、とって変わられる事を願っていたのでは…。私はそんな気がしてなりません。」
「…って。シグナムさんの言ってる事と同じだわ。」
「ユリアさんもわかっていたか。そう。ラオウ様は力と野望だけでこれまで生きてきた。そのために愛も哀しみも知らなかった。ケンシロウと闘って死ぬ事はすなわち本当の愛や哀しみを知る事。ケンシロウの目指した者がラオウ様であるようにラオウ様が目指した者もケンシロウだったのだ。」
私がそう言うとシャマルが言った。
「では、ラオウ様が死んだのは単に闘いによって敗れた死ではなく、自らの宿命に殉じた事による死だったのですね。」
「そうだ。ケンシロウに倒され、愛も哀しみも全てを知ったラオウ様は何一つ、悔いを残す事無く天に召されたのだ。これで成仏できぬことは何もあるまい。」
サキが言った。
「そうだったのですか。よくおわかりですね。シグナムさん。」
「当然だ。伊達にラオウ様に仕えていたのではないからな。」
さらにバットが言った。
「ケンはラオウの墓の前で言ってたぜ。」
「俺にはあなたが最大の強敵(とも)だった。俺はあなたの生き様を胸にこれからも北斗神拳伝承者として生きよう!」
「ってな。」
シャマルが2人に聞いた。
「ところでケンシロウ様とユリア様は?」
リンとバットが答えた。
「ケンはラオウが残した黒王号に乗ってユリアさんと旅立って行ったわ。」
「ユリアさんはトキと同じ病を背負っていた。その残り数年の余命を静かに過ごせってラオウに言われた通りケンは俺達の前から…」
2人は残念そうな表情だった。シャマルとサキが答えた。
「そんな…ユリア様も病を…。」
「それで前にお城でお会いした時、私達を遠ざけたのね…。」
「それでもせめて最後に一言くらいお礼を言いたかった…」
リンがそんな2人に元気を出すように言った。
「でもケンはいつか必ず帰って来る!その時まで待とうよ!」
サキも言った。
「そうよね。だってケンシロウ様はこの世の救世主だもの。いつまた何が起こってもきっと助けに来てくれるわ。」
2人のその言葉に私達は感心した。
私はラオウ様の墓の前で手を合わせながら心の中で彼に囁いた。
(ラオウ様、ケンシロウにとってあなたが最大の強敵なら、私にとってあなたは最大の主でした。あなたのために戦えた事、私だけに話して下さった事、共に過ごせた事、そして命を救ってくださった事、そして最期に私の名を呼んで下さった事。どれも一生忘れません。どうか安らかにお眠りください…)
シャマルとサキもトキの墓の前で囁いた。
「トキ様、あなたのおかげで私達は命を救われ、あなたの村で生き甲斐を見つける事が出来ました。」
「そんなあなたからの御恩は一生忘れません。村の事は私達にお任せ下さい。子供達も村人も皆、これからも私達と共に元気に暮らします。」
「天国でお兄様であるラオウ様。そしてご両親と平和にお過ごし下さい。」
「そしてこれからも私達を見守っていて下さい。」
こうして墓参りは終わった。私は皆に聞いた。
「最後にこの墓からラオウ様の遺骨を少し分けてもらって良いか?」
「何に使うの?」
「ちょっとな。良いだろ?」
「ウ、ウン…」
そうして私はラオウ様の墓から遺骨を半分程度取り出して皆に言った。
「では帰ろうか。私達の住む村へ!」
「ウン!」
そう言って私達はその場を去った。少し離れたところから私だけふと後ろを振り向くと墓の横にレイナの姿があった。彼女は微笑んでいた。そして再び私の心に囁きかけた。
(あなた達の言葉、天国のトキとラオウにしっかりと届けておきました。)
(ありがとう、レイナ。お前はこれからどうするのだ?)
(私はこれからも人々を人知れず見守り続けます。それが我ら巫女の役目。)
(そうか。ではこれからも私達を見守っていてくれ。)
(ハイ。)
そう言ってレイナは静かに消え去った。彼女の存在はここにいる者で私だけしか知らない。それで良いのだ。他の誰にもわからなくても・・・


21.エピローグ〜天へ〜

 こうして漢達は戦い、この世に一時の平安を残し、天に地に散って行った。私達はそれからもトキの村で平和に暮らした。リンとバット、リハクや生き残った兵士達、さらにフドウが預かっていた孤児達もこの村に移り住み、一気に賑やかになった。フドウが教えてくれた南斗5つの誓いも健在だ。
 空は明るく、眩しい太陽が私達を照らしている。その太陽はまるでケンシロウとユリアさん、そしてラオウ様のようだった。ケンシロウとユリアさんも今もどこかでこの空を眺めている事だろう。いつかまた会える日をずっと望んでいる。そしてラオウ様の残した光はいつまでも輝き続けるだろう。たとえ消えかかっても必ずまた輝き出す。そう、何度でも。
 ケンシロウ、お前は正しくこの世の救世主だ。お前がこの乱世を救ったのだ。私もそんなお前と闘えて良かった。あの日の闘いは決して忘れはしない。これからも強敵達との思い出を胸に弱き者のために戦い続けてくれ。
ユリアさん、あなたの優しさ、温かさも一生忘れません。あなたが守ろうとしていた子供達を…人々を私も守り続けます。どうか残りの余生、愛するケンシロウと平和にお過ごし下さい。
それからしばらくしたある日、私は村を離れ、1人でラオウ様の遺骨を持ってとある場所へとやって来た。そこはこの世に残された最後の海・死の海だった。この海の向こうにある国こそラオウ様の故郷・修羅の国。私はそんな海の前の浜辺に立ち、両掌に遺骨の粉を乗せ海に向けてかざした。すると吹いてきた風に乗って大海原へと散って行った。
(あなたの遺骨が…残した思いが故郷・修羅の国へと届くよう、こうして散骨します。これは私に本当の強さと生きる道を教えてくれた掛け替えの無いあなたへのお礼です。あなたと出会えて本当に良かった。その事に一片の悔いもありません。私もあなたの素晴らしい生き様を胸にこれからも生き続けていきます。修羅の国はケンシロウがいつかきっと救ってくれるでしょう。だから安心してこの大きな空の上からこれからの私達をずっと見守っていて下さい。我が最愛にして最大の主・ラオウ様・・・)
私は涙ながら心の中でそう呟いた。あの世のラオウ様へと届くように。
(ありがとう、シグナム・・・)
ラオウ様のそんな喜びの声が耳元に聞こえるようだった。蒼天の青空が、眩しい太陽が私と地上を照らしている。どんなに曇っていても太陽が照らす天は蒼い。それはまるでラオウ様が喜び、微笑んでくれているようだった。私はもう南斗の戦士としてではない。1人の女として自由に生き続ける。もう何も縛られるものはないのだから。これも全てラオウ様が教えてくれた。
 ありがとう、ケンシロウ!ユリアさん!ラオウ様!そして北斗神拳よ!永遠なれ!!
〜完〜

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修羅の国